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  • 2025/11/25公開

【第3回】MUFGの人と文化の変革──金融ビジネスを支える“人材基盤”はどう変わるのか──

【第3回】MUFGの人と文化の変革──金融ビジネスを支える“人材基盤”はどう変わるのか──

【第1回】なぜMUFGは変わらなければならなかったのか?

【第2回】MUFGの戦略と改革

【第3回】MUFGの人と文化の変革

【第4回】MUFGの変革から学ぶ「経営の本質」

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山本 和敏(やまもと かずとし)
マサチューセッツ州立大学MBA。USCPA(米国公認会計士)。情報系の大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。主にシステムインテグレーション関連のプロジェクトに従事する中で、製品やサービスに依存せず、顧客視点からの提案・支援を行いたいという思いが強くなり、コンサルティング業界への転職を決意。転職後は、IT関連のプロジェクトを中心に、業務改革や戦略策定など支援の範囲を広げ、様々な業界のクライアント様の課題解決に取り組んでいる。現在は、業界最大手のクライアント様の伴走支援を行い、上層部の方々が抱える難易度の高い課題に対し、これまで培ってきた知見やスキルを活かし、さまざまな視点から価値ある解決策を提供している。

目次
銀行文化の「硬直性」という課題
人材登用の新潮流──「スピード経営」を支える人の多様化
デジタル人材戦略──“金融×テクノロジー”時代の中核課題
組織文化の変革施策──「挑戦を称える文化」への移行
成果と壁──文化変革は「長距離走」
MBAの学びとの接点


銀行文化の「硬直性」という課題

MUFGを含む日本のメガバンクは、長年にわたり「安定」と「保守性」を重んじる企業文化のもとで成長してきました。それは、戦後の高度成長期からバブル崩壊後の不良債権処理まで、「安定した組織運営」を支える重要な土台でした。

典型的な特徴は次の通りです。

・終身雇用と年功序列
・慎重すぎるリスク回避姿勢
・縦割り組織と稟議中心の意思決定

このような文化は、経営統合や不況期におけるリスク管理の面では有効でしたが、今日のようにデジタル化・グローバル競争・変化のスピードが加速する時代には、むしろ“硬直性”が障害となりつつあります。意思決定に時間がかかり、挑戦が評価されにくい環境では、優秀な若手やデジタル人材が他業界に流出するリスクも高まります。

人材登用の新潮流──「スピード経営」を支える人の多様化

こうした硬直性を打破するため、MUFGは人材登用の在り方を大きく変え始めました。

若手登用の加速
これまでメガバンクでは、40代後半〜50代で要職に就くのが通例でした。
しかしMUFGでは、近年30代後半〜40代前半の執行役員・部長クラスが増加。
年齢よりも能力・成果を重視する「実力登用型」に転換しています。
特にデジタル戦略やグローバル事業では、意思決定のスピードが成果を左右するため、若手リーダーの抜擢が進んでいます。

女性管理職比率の引き上げ
2023年度に女性管理職比率が20%を突破。
2030年までに30%以上を目指す中期目標を掲げ、研修やキャリア支援プログラムを整備しています。
かつて「男性中心」だった銀行業界で、女性が役員や海外拠点のトップに登用される事例も増えています。

グローバル人材の活用
アジア現地法人では、現地出身のCEO・取締役を登用するケースが定着。
従来の「日本本社がすべて決める」モデルから、「現地経営チームが意思決定を担う」モデルへシフトしています。
これは単なる人事施策ではなく、グローバル市場で勝ち抜くための分権型経営への移行です。

デジタル人材戦略──“金融×テクノロジー”時代の中核課題

現在、MUFGが最も注力しているのが「金融とデジタルを橋渡しできる人材」の育成・確保です。

中途採用の拡大
従来は新卒一括採用が主流でしたが、いまやIT企業・コンサル・スタートアップ出身者を積極的に採用。
2023年度の中途採用比率は約25%に達しました。
銀行業界では異例の数字であり、“外の血”を取り入れることで新しい発想を注入しています。

リスキリング投資
MUFGは全社員を対象にデジタル教育を必修化し、AI、データ分析、プログラミングなどの基礎スキルを学べる環境を整備。
年間約3万人がリスキリングプログラムに参加しています。
これは単なる研修ではなく、「金融のプロがテクノロジーを理解する」文化をつくる試みです。

専門職コースの導入
従来の「ゼネラリスト一筋」から脱却し、スペシャリスト人材を厚遇する仕組みも導入。
特に高度IT人材や金融工学人材には専門職としての処遇・報酬体系を整備し、人材市場での競争力強化を図っています。

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組織文化の変革施策──「挑戦を称える文化」への移行

制度や採用だけでは文化は変わりません。MUFGは組織の“内側”にも変化を促しています。

ワークスタイル改革
テレワーク導入率は70%以上に達し、フレックス勤務も標準化。
これまで「出社してこそ評価される」という旧来型文化を覆し、多様な働き方を可能にしました。
ワークライフバランスの改善に加え、地方・海外からのリモート勤務も増えています。

評価制度の見直し
年次ではなく成果・スキルに基づいた評価へ移行。
「在籍年数=昇進」という構造を崩し、個人の貢献を公正に評価する制度を整備。
これにより、年齢や所属部署に関わらず挑戦が報われる風土が少しずつ根づいています。

新事業への挑戦風土づくり
社内公募制度やイントレプレナー制度(社内起業制度)を拡充。
実際、デジタル証券事業やASEAN向け新サービスの一部は、社員の自主提案からスタートしています。
「変化を提案できる組織」への進化が始まっています。

成果と壁──文化変革は「長距離走」

こうした改革の成果は、社員意識にも表れています。
2023年の社内調査では、「挑戦を評価する文化が浸透してきた」との回答が60%以上に上りました。

一方で、現場からは次のような課題も聞かれます。

・「失敗に対する許容度はまだ低い」
・「本社の稟議文化が根強い」
・「デジタル人材の処遇格差が広がる懸念がある」

つまり、制度改革は進んでいても、意識と文化の変革には時間がかかるのが現実です。 MUFGはこの「過渡期の摩擦」をあえて受け止め、組織の学習サイクルをまわそうとしています。

MBAの学びとの接点

MUFGの事例から見えるポイントは、MBAで学ぶフレームワークに直結します。

MBAの論点 MUFG事例からの示唆
組織行動論 社員の行動習慣を変える施策(挑戦・失敗の許容度)
人材戦略論 ゼネラリスト型からスペシャリスト型への転換
リーダーシップ 多様な人材(若手・女性・海外人材)を束ねる力
変革マネジメント 制度だけでなく文化を根付かせる仕組みの重要性

次回予告

第4回では、MUFGの取り組みを総括し、「メガバンクの変革から学ぶ経営の本質」を整理します。

・巨大組織がどう全体最適を設計するのか
・金融業界に特有の「規制」と「収益」の両立
・個人にとっての学びと示唆

を中心にまとめます。

次の記事はこちら

【第4回】MUFGの変革から学ぶ「経営の本質」


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