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  • 2025/11/10公開

【第1回】なぜMUFGは変わらなければならなかったのか?──メガバンクを揺るがす“構造的課題”を読み解く──

【第1回】なぜMUFGは変わらなければならなかったのか?──メガバンクを揺るがす“構造的課題”を読み解く──

【第1回】なぜMUFGは変わらなければならなかったのか?

【第2回】MUFGの戦略と改革

【第3回】MUFGの人と文化の変革

【第4回】MUFGの変革から学ぶ「経営の本質」

この記事を書いた人

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山本 和敏(やまもと かずとし)
マサチューセッツ州立大学MBA。USCPA(米国公認会計士)。情報系の大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。主にシステムインテグレーション関連のプロジェクトに従事する中で、製品やサービスに依存せず、顧客視点からの提案・支援を行いたいという思いが強くなり、コンサルティング業界への転職を決意。転職後は、IT関連のプロジェクトを中心に、業務改革や戦略策定など支援の範囲を広げ、様々な業界のクライアント様の課題解決に取り組んでいる。現在は、業界最大手のクライアント様の伴走支援を行い、上層部の方々が抱える難易度の高い課題に対し、これまで培ってきた知見やスキルを活かし、さまざまな視点から価値ある解決策を提供している。

目次
「安定の象徴」だった銀行業界に走った衝撃
MUFGの強みと同時に“重荷”となった構造
外部環境と“見えにくい危機”
課題の本質は「収益モデル」と「組織構造」
この分析にMBAの学びはどう活きるのか?


「安定の象徴」だった銀行業界に走った衝撃

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、資産規模で日本最大級、世界でもトップクラスの金融グループです。しかし、「銀行=安定」という常識が崩れたのが2000年代以降。低金利政策、金融危機、規制強化、フィンテックの台頭と、銀行業界は従来モデルでは収益を維持できない時代に突入しました。

超低金利環境(マイナス金利導入:2016年)
貸出金利の低下で伝統的な利ザヤ収益が縮小。MUFGの国内貸出利鞘は過去20年で半分以下に。

金融危機の余波(2008年リーマンショック)
巨額の株式保有・海外投融資がリスクとして顕在化。銀行の安全神話が揺らぐ。

規制強化(バーゼルⅢ)
自己資本比率規制が厳格化。リスク資産の積み増しで収益力とのトレードオフが顕著に。

デジタル化・フィンテックの勃興
送金・決済領域でGAFAや新興フィンテックが進出。若年層の「銀行離れ」が加速。

MUFGに限らず、メガバンク全体が「これまでの稼ぎ方が通用しない」時代に直面したのです。

MUFGの強みと同時に“重荷”となった構造

MUFGの特徴は、巨大さと多角性にあります。

総資産:約400兆円(2023年度時点)
国内外グループ企業数:1,100社以上
主要事業:法人融資、リテール、投資銀行、信託、カード、証券

この規模はスケールメリットでもありますが、同時に「部分最適の温床」となり、以下の課題が浮き彫りになりました。

国内依存の高さ:貸出の約6割が国内で、人口減少・成熟市場に依存。
複雑な組織構造:銀行・信託・証券が縦割りで動き、顧客対応に一貫性を欠く。
ITシステムの老朽化:数十年にわたるレガシーシステムが統合の足かせに。

つまり「大きいからこそ変われない」というジレンマが、MUFGに重くのしかかっていたのです。

外部環境と“見えにくい危機”

金融業界の危機は、製造業や小売業のように「売上が急減する」「在庫が積み上がる」といった形で表面化しにくいという特徴があります。数字上は黒字を維持していても、その裏では収益構造の劣化がじわじわと進行しているのです。

たとえば、MUFGをはじめとするメガバンクの国内融資残高は横ばいを維持していますが、利ざや(貸出金利−預金金利)はこの20年で約半減しています。表面上の利益はコスト削減や為替差益などで補われているものの、実質的な収益力は徐々に削がれています。

また、銀行のビジネスモデルは「規制によって守られている」ため、一般企業のように倒産リスクが顕在化しにくい反面、内部の危機感が生まれにくい構造を持ちます。この構造的な“ぬるま湯”が、変革を遅らせる最大の要因となります。

実際、マイナス金利導入後も短期的には安定した利益を確保していたため、現場では「まだ大丈夫ではないか」という空気が支配的でした。しかし、経営層が直面していたのは、「5年後、10年後には現在のビジネスモデルが持たない」という静かで深刻な危機です。
フィンテック企業が若年層の決済・送金領域を奪い、海外ではGAFAや中国の巨大プラットフォーマーが金融サービスに参入。資金を“預かる側”から“動かす側”への主導権シフトが進みつつあります。

つまり、MUFGの危機は数字では見えにくいが、時間をかけて組織の競争力を蝕む“構造的劣化”であり、ここに気づけるかどうかが、変革の成否を分けたのです。

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課題の本質は「収益モデル」と「組織構造」

MUFGが直面した課題は、単に「金利が低いから儲からない」という単線的な話ではありません。むしろ本質は、「収益モデルの多様化」と「組織構造の再設計」という2つの難題にあります。

① 収益モデルの転換

銀行ビジネスの伝統的な柱は融資でしたが、今や貸出金利で稼ぐ時代は終わりつつあります。 そのためMUFGは、下記へと軸足を広げています。

・投資信託、保険販売などの手数料ビジネス
・企業のM&A支援や海外資金調達を支える投資銀行業務
・アジアを中心としたグローバル展開

この転換は単なる“事業の追加”ではなく、銀行が「モノを売る」から「価値を設計する」存在へ変わることを意味します。

② 組織構造の最適化

MUFGのもう一つの難題は、巨大グループゆえの縦割り構造の弊害です。銀行・信託・証券・カードなどの各事業会社がそれぞれ最適化を追求するあまり、顧客から見れば「同じMUFGなのに窓口が違う」「データがつながっていない」という非効率が生まれていました。そのためMUFGは、グループ横断で顧客情報を統合し、法人・個人を問わずワンストップでサービスを提供する「One MUFG」構想を推進中です。これにより、顧客のライフサイクルや事業成長に合わせて、最適な金融ソリューションを柔軟に提供できる体制づくりを進めています。

③ デジタル対応の加速

さらに、もう一つの大きな壁がレガシーITシステムの存在です。膨大な勘定系システムをクラウド化し、AI・データ分析を用いて融資審査やリスク管理を自動化するなど、MUFGは金融の“デジタル・プラットフォーマー化”を目指しています。

もしこれらの課題を先送りすれば、MUFGのような巨大企業であっても、いずれは構造疲労によって競争優位を失う可能性があります。つまり、変革とは単なる生き残り策ではなく、銀行という存在を再定義する経営戦略そのものなのです。

この分析にMBAの学びはどう活きるのか?

MUFGの事例から見えるポイントは、MBAで学ぶフレームワークに直結します。

MBAの論点 MUFG事例の示唆
経営戦略論 コア事業の再定義とポートフォリオ転換
組織デザイン論 多角事業をどう統合し、全社最適を実現するか
ファイナンス 規制下でのROE改善、資本効率の追求
デジタル戦略 レガシーからの脱却と新技術活用のスピード感

次回予告

第2回では、MUFGが実際にどのような戦略と改革に取り組んでいるのかに焦点を当てます。

・海外展開(特にアジア投資銀行事業)
・デジタルバンクへの挑戦
・顧客起点の組織再編(バーチャル支店やデジタルサービス)

を具体的に掘り下げ、収益モデルの変革に迫ります。

次の記事はこちら

【第2回】MUFGの戦略と改革


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