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  • 2025/05/28公開

【第2回】「持株会社制」への移行は何を変えたのか? ── 組織の自走化と戦略の“再集中” ──

【第2回】「持株会社制」への移行は何を変えたのか? 	── 組織の自走化と戦略の“再集中” ──

【第1回】なぜパナソニックは変わらなければならなかったのか?

【第2回】「持株会社制」への移行は何を変えたのか?

【第3回】変革を支える“組織文化”の再構築とその本質

【第4回】パナソニックの変革から学ぶ「経営の本質」

この記事を書いた人

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山本 和敏(やまもと かずとし)
マサチューセッツ州立大学MBA。USCPA(米国公認会計士)。情報系の大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。主にシステムインテグレーション関連のプロジェクトに従事する中で、製品やサービスに依存せず、顧客視点からの提案・支援を行いたいという思いが強くなり、コンサルティング業界への転職を決意。転職後は、IT関連のプロジェクトを中心に、業務改革や戦略策定など支援の範囲を広げ、様々な業界のクライアント様の課題解決に取り組んでいる。現在は、業界最大手のクライアント様の伴走支援を行い、上層部の方々が抱える難易度の高い課題に対し、これまで培ってきた知見やスキルを活かし、さまざまな視点から価値ある解決策を提供している。

目次
組織再設計が始まった背景とは?
なぜ「持株会社制」なのか?
Panasonic Energy社に見る“変革の実効性”
グループ本社の役割も“再定義”された
「自走する組織」とはどういう状態か?
他社と比較したときの独自性とは?
この分析にMBAの学びはどう活きるのか?

組織再設計が始まった背景とは?

パナソニックが2022年に実行した最大の経営改革が「持株会社制(ホールディングス化)」への移行です。この再設計の背景には、前回で扱った通り、社内カンパニー制の限界と、戦略と組織の乖離がありました。特に問題だったのは、以下のような構造的課題です。

・各事業が“別々の会社”のように動き、連携や資源配分が不十分

・戦略の一貫性が弱まり、全社視点での意思決定が鈍化

・成長事業と非成長事業の見極めが曖昧になり、資本効率が低下

つまり、どれだけ優れた戦略があっても、それを実行する「土台=組織体制」が整っていなければ、経営の質は向上しないという課題に直面していたのです。

では、なぜパナソニックはこのタイミングで、そこまで大きな改革に踏み切ったのでしょうか?

なぜ「持株会社制」なのか?

持株会社制とは、グループ全体を統括する“戦略本社”と、事業を直接担う“事業会社”とに明確に役割を分ける仕組みです。パナソニックはこの制度によって、以下の3点を大きく変えることを狙いました。

①意思決定のスピードアップ

事業会社ごとに収益責任と意思決定権限を与えることで、市場環境に即したスピーディーな対応を可能に。

②資源配分の最適化

本社は全体最適の視点から、ヒト・モノ・カネを戦略的に再配置。選択と集中を実現しやすくする。

③経営責任の明確化

各事業のトップに、経営者としてのKPIと権限を明確に設定。成果と責任が直結する構造を構築。

Panasonic Energy社に見る“変革の実効性”

持株会社制への移行によって、グループ各社における経営判断の独立性とスピードが向上しました。

その最も顕著な例が、車載電池を扱う中核企業の一つ、「Panasonic Energy」社に見ることが出来ます。同社は、世界的なEV(電気自動車)市場の拡大を受け、米テスラとの戦略的パートナーシップを軸に北米展開を加速。特に注目すべきは、米国カンザス州における車載電池の新工場建設を、わずか数カ月の意思決定で実行に移したという点です。これまでの本社集中型の意思決定体制では、数年単位の時間がかかっていた可能性もあります。

このスピード実行を支えたのが、持株会社制に移行したことで得られた「現場の裁量」です。Panasonic Energyは独自に、工場建設に伴う巨額投資の意思決定、補助金の獲得交渉(例:米国インフレ抑制法[IRA]に基づくインセンティブ)、さらには、現地パートナー企業とのアライアンス交渉まで、迅速に対応することが可能になりました。

また、事業戦略に基づいた技術開発投資や人材採用の自由度も高まり、EV電池の次世代化(4680セルなど)に向けた研究体制の強化や、北米でのエンジニア採用などもスピーディーに進んでいます。

こうした動きは、単なる制度変更ではなく、経営の“現場密着型スピード経営”への転換が、実際の成果につながっていることを如実に示しています。Panasonic Energyはその象徴的存在と言えるでしょう。

グループ本社の役割も“再定義”された

これまでの本社は「総務的機能」が中心でしたが、持株会社化以降は戦略本社=“司令塔”機能へと進化したと言えます。

担当する主な役割

・グループ全体のポートフォリオ設計(どの事業に資源を集中するか)

・資本政策(M&A、出資、撤退など)

・経営人材の発掘と配置

・サステナビリティやデジタル戦略など横断テーマの統合管理

このように、「現場に任せて、本社は引く」という発想ではなく、“戦略から逆算して組織を設計する”という発想への転換が起きているのです。

「自走する組織」とはどういう状態か?

再編後のパナソニックでは、事業会社のトップに対する期待値が大きく変わりました。

・短期収益だけでなく、中長期の市場シフトを見据えた戦略立案

・経営資源(人材・資金・設備)の再配分に自ら責任を持つ

・社外パートナーとの提携や新事業創出にも裁量を持つ

これらは単なる“執行”ではなく、事業を“創る側”としての自走型経営であると言えます。

他社と比較したときの独自性とは?

持株会社制の導入自体は、他の日本企業であるソニーなども行っています。ただし以下の3点で、パナソニックは、より「戦略と人材の両面から全体を設計している」という意味で、他社と比較して独自性が高いと言えるでしょう。

・各事業のP/L責任を極めて明確にしている点

・本社が“経営者育成機能”として積極的に関与している点

・成長が期待される領域(EV・エネルギー・デジタル)の加速性が高い点

この分析にMBAの学びはどう活きるのか?

今回の分析には、MBAで学ぶ以下の観点が自然に結びついています。

MBAの論点 関連する思考・知識
組織デザイン論 組織構造が戦略実行にどう影響するかを体系的に理解
経営戦略論 グループポートフォリオと資源配分の設計力
コーポレート・ガバナンス 経営責任の明確化とリーダーの役割設計
ファイナンス 資源最適化に向けた投資意思決定とROICの見極め

こうした視点を持つことで、「制度変更」という表層的な現象から、その奥にある“経営思想”を読み解くことが可能になります。

次回予告

次回第3回では、制度だけでは変わらない、文化と人の変革に焦点を当てます。「変革が本当に根付いたか?」を判断する鍵は、“人の行動が変わったかどうか”です。次回もぜひご覧ください!

【第3回】変革を支える“組織文化”の再構築とその本質

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