本ウェブサイトでは、Cookieを利用しています。本ウェブサイトを継続してご利用いただく際には、当社のCookieの利用方針に同意いただいたものとみなします。

  • NEW
  • 2025/06/13公開

【第1回】なぜ楽天は「通信×金融×EC」にこだわるのか?── 垂直統合による独自戦略の構造を読み解く──

【第1回】なぜ楽天は「通信×金融×EC」にこだわるのか?── 垂直統合による独自戦略の構造を読み解く──

【第1回】なぜ楽天は「通信×金融×EC」にこだわるのか?

【第2回】楽天グループ再編の本質「持株会社化」と戦略子会社の再定義

【第3回】楽天の「挑戦文化」はどう生まれたのか?

【第4回】楽天の経営に学ぶ「変革する組織」の設計図

この記事を書いた人

guest.jpg

山本 和敏(やまもと かずとし)
マサチューセッツ州立大学MBA。USCPA(米国公認会計士)。情報系の大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。主にシステムインテグレーション関連のプロジェクトに従事する中で、製品やサービスに依存せず、顧客視点からの提案・支援を行いたいという思いが強くなり、コンサルティング業界への転職を決意。転職後は、IT関連のプロジェクトを中心に、業務改革や戦略策定など支援の範囲を広げ、様々な業界のクライアント様の課題解決に取り組んでいる。現在は、業界最大手のクライアント様の伴走支援を行い、上層部の方々が抱える難易度の高い課題に対し、これまで培ってきた知見やスキルを活かし、さまざまな視点から価値ある解決策を提供している。

目次
楽天の戦略は「多角化」ではない
「楽天経済圏」が描く全体戦略とは?
通信事業への参入は、楽天経済圏の“中枢装置”
楽天の成長戦略は“リスクを取る構造”に貫かれている
他社と何が違うのか?
この分析にMBAの学びはどう活きるのか?

楽天の戦略は「多角化」ではない

「楽天は結局、何の会社なのか?」、そう感じる方も多いかもしれません。EC、銀行、証券、保険、携帯キャリア、物流、旅行……と事業は実に多岐にわたります。これだけを見れば“単なる多角化企業”に見えるかもしれませんが、楽天の経営の本質はそこではありません。

楽天が目指しているのは、「楽天経済圏」という“垂直統合型”のエコシステムです。つまり、個別のビジネスが独立して存在しているのではなく、相互に密接に接続され、データとユーザー基盤を共有する“戦略的ネットワーク”なのです。

「楽天経済圏」が描く全体戦略とは?

楽天のユーザーが買い物をし、楽天カードで支払い、楽天証券で資産運用し、楽天モバイルを契約する。この一連の行動が楽天全体にデータとして蓄積され、各サービスが連携してユーザーに最適化された体験を提供する──この構造こそが、楽天の独自性の中核です。

これにより、以下のような“経済圏経営”ならではの競争優位が構築されているのです。

・自社データによるマーケティングの精緻化

・顧客獲得コストの低下(クロスセルが可能)

・LTV(顧客生涯価値)の最大化

・サービス間での囲い込みとスイッチングコストの上昇

通信事業への参入は、楽天経済圏の“中枢装置”

楽天があえて超競争市場である携帯通信事業(楽天モバイル)に、多額の資金を投じてまで参入したのは、単なる事業拡大のためではありませんでした。むしろ「通信インフラそのものを自社で保有すること」が、楽天グループ全体の競争力を大きく底上げする“中核戦略”だったのです。

通信業界は、すでにNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの三大キャリアが寡占状態にあり、新規参入のハードルは極めて高いとされています。莫大な設備投資、基地局整備、膨大な顧客獲得コスト──どれを取ってもレッドオーシャン。しかし、楽天はこの市場にあえて挑みました。

それはなぜか?理由は極めてシンプルです。楽天は「通信」を抑えることで、自社の“経済圏”の統制力を劇的に強化できると考えたからです。

たとえば…

・通信データを自社で保有できるため、ユーザーの行動・購買・位置情報といった膨大な一次データを、楽天グループ内で独占的に活用できる

・通信サービス、アプリ、楽天IDをすべて同一のプラットフォーム上で連携させることで、UX(ユーザー体験)をシームレスに統合できる

・AppleやGoogleのような外部OSプラットフォームに頼らず、独自のモバイルエコシステムを構築可能になる

つまり、楽天モバイルの本質は「単独で黒字化するための通信事業」ではなく、“楽天経済圏全体の主導権”を握るための布石だったというわけです。

楽天の成長戦略は“リスクを取る構造”に貫かれている

楽天の経営戦略の中核には、一貫して「リスクを恐れず、自ら市場を切り拓く姿勢」があります。目先の利益ではなく、長期的な基盤づくりに重きを置く“挑戦型経営”です。

実際に楽天は、他社が尻込みしがちな領域にいち早く踏み込み、次々と「未開のプラットフォーム」を自ら構築してきました。

・2001年、日本で初となるインターネット専業銀行を立ち上げ(現:楽天銀行)

・EC以外に、証券・保険・クレジットカードなど金融領域へも早期展開

・Amazonのような物流支配に対抗し、独自配送網「Rakuten EXPRESS」を自前で構築

・さらに近年では、通信(楽天モバイル)、遠隔医療、EdTechなどにも進出

これらの取り組みに共通しているのは、外部サービスや大手プラットフォーマーへの依存を避け、自社でエコシステム全体をコントロールしようとする構造です。

つまり、楽天は“サービスを点で展開する”のではなく、“ユーザー接点を線でつなぎ、面で囲い込む”ことに注力しているのです。当然ながら、こうした大型投資はすぐに利益を生まないことも多く、赤字覚悟の事業も存在します。しかし楽天の視点は短期的な損益ではなく、自社の経済圏全体をどう支配・拡張していくか=プラットフォーム支配力(platform dominance)をいかに高めるかに置かれています。

他社と何が違うのか?

楽天と似た多角化モデルに見える企業は少なくありませんが、明確な違いは以下にあると言えます。

・“囲い込み”と“連動設計”を徹底している点

・サービス間でIDとポイントを統合管理している点

・独自開発による“内製力”の強さ(通信、物流、金融、IT基盤)

たとえばAmazonなどもエコシステムを持ちますが、楽天は「経済圏内で顧客行動が循環する構造」を徹底設計しています。これは、「ネットワーク外部性」と「プラットフォーム戦略」を融合させた、非常にユニークなモデルです。(これは、ビジネススクールでよく学ぶテーマと言えます。)

ネットワーク外部性とは

ユーザー数が増えれば増えるほど、サービスの価値が上がる仕組みのこと。たとえば楽天ポイントを使える場所が多いほど、使う人にとっても、加盟店にとっても便利になる。これが“外部性”です。

プラットフォーム戦略とは

異なるプレイヤー(顧客と出店者、利用者と提供者など)をつなぐ「土台」を提供し、その上で多様な取引やサービスを展開する経営のやり方。楽天はEC・金融・通信をすべてこの「土台」に乗せて連携させています。

楽天はこの2つを組み合わせて、「使えば使うほど便利になる経済圏」を作り出しているのです。たとえば、楽天カードで買い物をすると楽天市場のポイント還元率が上がる → そのポイントで楽天モバイルの支払いができる → データ通信でも楽天IDの利用履歴が蓄積される、というように、すべてのサービスが“点”ではなく“循環”でつながっているのが特徴です。

このような顧客が自然と楽天内に留まり、移動するたびに価値が増す仕組みは、他社にはなかなか真似できない楽天の強みです。

この分析にMBAの学びはどう活きるのか?

楽天のケースは、MBAで学ぶ以下の視点を生きたかたちで学べる絶好の素材です。

MBAの論点 関連する思考・知識
経営戦略論 ネットワーク効果/プラットフォーム型ビジネスの設計思想
競争戦略論 差別化要因としての“統合的な体験”と顧客ロイヤルティ
ファイナンス 投資回収モデルと、短期損益と中長期価値創出のバランス
IT戦略/デジタル経営 データドリブン経営とユーザー行動最適化の実践論

単なる「事業の足し算」ではなく、「構造の設計思想」を持っている企業を理解するために、MBAの学びは非常に強力なフレームワークになります。

次回予告

次回第2回では、楽天のグループ再編と子会社戦略を軸に、「組織構造」がどう戦略に合致するよう設計されているかを紐解きます。 次回もぜひご覧ください!

【第2回】楽天グループ再編の本質「持株会社化」と戦略子会社の再定義

アビタスでは、国際認証を取得している「マサチューセッツ州立大学(UMass)MBAプログラム」を提供

国際資格の専門校であるアビタス(東京)が提供しているプログラムで、日本の自宅からオンラインで米国MBA学位を取得できます。

日本語で実施する基礎課程と英語で行うディスカッション主体の上級課程の2段階でカリキュラムが組まれているため、英語力の向上も見込めます。

世界でわずか5%のビジネススクールにしか与えられていないAACSB国際認証を受けており、高い教育品質が保証されているプログラムです。

自宅にいながら学位が取得できるため、仕事や家事と両立できる点も強みです。

アビタスでは無料のオンライン説明会と体験講義を実施しています。興味のある人はお気軽にお問い合わせください。

まずは無料の説明会にご参加ください。

合わせてお読みください

最近のエントリー

カテゴリから探す