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  • 2025/07/24公開

【第3回】“統合しない強さ”、ソニーの組織文化と経営統制── 自律と調和を両立する「緩やかな結びつき」の設計──

【第3回】“統合しない強さ”、ソニーの組織文化と経営統制── 自律と調和を両立する「緩やかな結びつき」の設計──

【第1回】なぜソニーは「家電メーカー」から脱皮できたのか?

【第2回】IPとテクノロジーを融合する「ソニーのプラットフォーム戦略」

【第3回】“統合しない強さ”、ソニーの組織文化と経営統制

【第4回】ソニーに学ぶ「多角化の成功条件」

この記事を書いた人

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山本 和敏(やまもと かずとし)
マサチューセッツ州立大学MBA。USCPA(米国公認会計士)。情報系の大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。主にシステムインテグレーション関連のプロジェクトに従事する中で、製品やサービスに依存せず、顧客視点からの提案・支援を行いたいという思いが強くなり、コンサルティング業界への転職を決意。転職後は、IT関連のプロジェクトを中心に、業務改革や戦略策定など支援の範囲を広げ、様々な業界のクライアント様の課題解決に取り組んでいる。現在は、業界最大手のクライアント様の伴走支援を行い、上層部の方々が抱える難易度の高い課題に対し、これまで培ってきた知見やスキルを活かし、さまざまな視点から価値ある解決策を提供している。

目次
ソニーは「一枚岩の会社」ではない、統合しないのに“強い”理由とは?
「統制」ではなく「デザイン」でつなぐはどう成立するか?
分社経営の成功要因、分けても崩れない組織の条件
“カルチャーの違い”を受け入れている強さ
リーダーシップは“制御”ではなく“方向づけ”
この分析にMBAの学びはどう活きるか?


ソニーは「一枚岩の会社」ではない、統合しないのに“強い”理由とは?

ソニーの組織構造は、よくも悪くも“バラバラ”に見えることがあります。

・ゲーム、音楽、映画、半導体、金融…事業内容も文化もバラバラ
・本社と子会社の経営陣が“別の顔ぶれ”であることも多い
・かつては部門間の協力が進まなかった時期もあった

それでもなお、全体としてまとまりを失わず、各事業が成長と収益を確保している。この状態は、単なる“分社経営”ではなく、意図的に「統合しないことで、統合以上の成果を出す」構造といえます。

「統制」ではなく「デザイン」でつなぐはどう成立するか?

ソニーの経営構造の特徴は、「本社が全部を統制しない」ことです。代わりに、「グループとしての大きな思想・原理」で組織を束ねています。

・トップのメッセージは“明確だが、細部には踏み込まない”
・事業部ごとにカルチャーが異なっていても、成果で評価する
・共通のテクノロジー基盤(例:センサー技術など)は社内で共有されるが、使い方は自由

このように、“強制されないが、共有される価値観”が存在している状態が、ソニーの「緩やかな結びつき」の正体です。

分社経営の成功要因、分けても崩れない組織の条件

ソニーは、持株会社化によって各事業を子会社化・独立採算に移行しました。そのうえで、「失敗してもいいから挑戦する」「事業ごとに最適な意思決定を行う」ことができるようになったのです。

このスタイルが機能するには、以下の条件がそろっている必要があります。

成功条件 ソニーの実例
各事業の自律性 PlayStationは独自ブランド・CEOも別人
全体戦略との整合性 本社が中長期のテーマ・資本配分で調整
相互補完の意識 半導体技術がカメラやスマホに展開される
トップの信頼 組織の分散を“意志ある分権”として認めている

これは、MBAで学ぶ「分権型経営(decentralized governance)」の良質な実例であり、日本企業には比較的珍しいスタイルでもあります。

“カルチャーの違い”を受け入れている強さ

ソニーの面白さは、ひとつの企業でありながら、事業ごとにまったく異なるカルチャーを共存させている点にあります。
例えば、

・映画・音楽事業は、ハリウッド文化を背景に持ち、アメリカ主導の自由で創造的なエンタメ文化が根付いています。個人の表現力や瞬発的な意思決定が求められる、非常にダイナミックな空間です。
・ゲーム部門(SIE)は、技術力と表現の融合が軸。日本的な精密さと、欧米的なクリエイティビティが両立するハイブリッド文化が存在します。
・半導体部門では、研究開発型のカルチャーが色濃く、理論と実証、長期視点での競争優位の構築が重要とされます。ロジカルで静かながら、非常に芯の強い世界です。
・金融事業においては、リスク管理・制度遵守が重視される、伝統的で慎重な企業文化が息づいています。

このように、本来であれば相容れにくい複数のカルチャーが、ひとつの企業体に違和感なく存在していることは、他の多角化企業と比べても極めてユニークです。 ソニーは、「すべてを一つの文化で統一する」のではなく、「文化を尊重しながら戦略的に束ねる」ことを選んでいます。
これは、経営学的に言えば「マルチドメイン型の文化マネジメント」に近く、強制的な統合ではなく、“共存と補完”を前提にしたガバナンス設計とも言えます。

・カルチャーの違いを「多様性」ではなく「機能」として扱う
・共通項(ビジョンやガイドライン)は最小限に
・各事業が“ソニーらしさ”を自律的に定義している

この設計こそが、多様な強みを無理なく束ねる柔軟性のある経営の源泉になっているのです。

“リーダーシップは“制御”ではなく“方向づけ”

ソニーのトップは、組織に対して「管理」ではなく、「方向づけ」を行っています。

・明確な中長期テーマ(例:クリエイティビティとテクノロジーの融合)を掲げる
・必要に応じて資本とリソースを再配分
・成長の芽を見極めて、グループ全体のバランスを整える

これは、オーケストラの指揮者(一人ひとりの演奏(=事業)を信頼しつつ、全体が一つの音楽になるよう、テンポと方向を示す存在)のような経営であり、個別プレーヤーの自由と創造性を保ちながら、全体として一貫性を持たせるマネジメントです。

この分析にMBAの学びはどう活きるか?

ソニーの分社経営・文化設計・統制スタイルは、以下のようなMBA領域と関係しています。

MBA分野 ソニーとの接点
組織設計論 分社型・事業会社制・持株会社による最適経営単位の設計
組織文化論 多様な文化を許容し、成果でつなぐ“構造的共存”の考え方
ガバナンス論 経営陣の役割分担と責任設計の再設計
リーダーシップ論 制御でなく“方向づけ”で統率するトップのあり方

「トップダウンでもボトムアップでもない“設計型経営”」、それを体現しているのが、現在のソニーの組織です。

次回予告

シリーズ最終回では、これまでの戦略・構造・文化を総括し、ソニーという企業が教えてくれる「多角化の成功条件」について深く掘り下げていきます。次回もぜひご覧ください!

次の記事はこちら

【第4回】ソニーに学ぶ「多角化の成功条件」

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