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  • 2025/10/16公開

【第1回】なぜJALは変わらなければならなかったのか?──経営破綻と再建の背景にある“構造的課題”を読み解く──

【第1回】なぜJALは変わらなければならなかったのか?──経営破綻と再建の背景にある“構造的課題”を読み解く──

【第1回】なぜJALは変わらなければならなかったのか?

【第2回】JAL再建はなぜ「奇跡」と呼ばれたのか?

【第3回】再建後のJALに待ち受けた新たな試練

【第4回】JALの未来と私たちへの教訓

この記事を書いた人

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山本 和敏(やまもと かずとし)
マサチューセッツ州立大学MBA。USCPA(米国公認会計士)。情報系の大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。主にシステムインテグレーション関連のプロジェクトに従事する中で、製品やサービスに依存せず、顧客視点からの提案・支援を行いたいという思いが強くなり、コンサルティング業界への転職を決意。転職後は、IT関連のプロジェクトを中心に、業務改革や戦略策定など支援の範囲を広げ、様々な業界のクライアント様の課題解決に取り組んでいる。現在は、業界最大手のクライアント様の伴走支援を行い、上層部の方々が抱える難易度の高い課題に対し、これまで培ってきた知見やスキルを活かし、さまざまな視点から価値ある解決策を提供している。

目次
戦後のシンボルが破綻した衝撃
高コスト体質という“構造的重荷”
外部環境の激変が引き金に
問題は「戦略」ではなく「構造」だった
「破綻」は終わりではなく、始まりだった
この分析にMBAの学びはどう活きるのか?


戦後のシンボルが破綻した衝撃

2010年1月19日、日本航空(JAL)は会社更生法の適用を申請しました。負債総額は約2兆3,200億円。これは当時、日本の製造業や流通業を含めても戦後最大規模の企業倒産でした。
「日の丸フラッグキャリア」が国の管理下に入った出来事は、多くの国民にとって「日本経済の象徴が崩れた」ような衝撃を与えました。

しかし、破綻は突発的な経営判断の失敗ではありません。その背後には長年積み重なった、産業構造・組織文化・財務体質の慢性的課題が存在していました。

高コスト体質という“構造的重荷”

JALが抱えていた課題の中心は「高コスト構造」でした。

人件費と福利厚生
平均給与水準は他産業の大企業を大きく上回り、退職給付債務は2009年度末で約3,300億円に達していました。国営時代の名残が、民営化後も企業文化として残り続けたのです。

肥大化した組織
ピーク時には約5万名規模の従業員を抱え、ANAより1万人以上多い人員を維持。路線運営、整備、ホテル、旅行代理店など、周辺事業を広範囲に抱え込んだことも非効率を招きました。

不採算路線の温存
地方路線や国際線の一部は赤字が続いていたにもかかわらず、「公益性」や「政治的配慮」から維持。結果として、収益の柱となるはずの国際線の利益率は低迷し続けました。

こうした構造的なコストの重さが、外部環境が悪化するたびにJALの経営を直撃しました。

外部環境の激変が引き金に

2000年代に入ると、航空産業は急速に変化しました。

LCCの台頭
ANAは2011年に関西拠点のLCC「ピーチ」を設立。さらに、エアアジア(マレーシア)、ジェットスター(豪州)といった海外勢が日本市場に相次いで進出しました。従来、東京〜福岡線のJAL運賃は片道2万円前後が一般的でしたが、LCCは5,000円台から販売。価格差は約4分の1にまで広がり、コスト構造が重いJALは真っ向からの競争を避けざるを得ませんでした。

国際的ショック
2001年9月の米同時多発テロでは、世界全体の国際航空需要が前年比約15%減少。さらに2003年のSARS流行では、アジア路線の旅客数が4割近く減少しました。JALはアジア路線比率が高かったため直撃を受け、国際線収入は数千億円規模で減少しました。

燃油価格の高騰
2008年、原油価格は一時1バレル=147ドルという史上最高値を記録。JALの燃料費は前年比40%超増となり、営業費用の約3分の1が燃油コストに膨れ上がりました。特にJALは100機以上のジャンボ機(B747)を保有していたため、燃費効率の悪さが致命傷となりました。

これらは世界中の航空会社が直面した逆風でした。しかし、コスト削減や事業再編に踏み切れない硬直的な体質を抱えていたJALにとっては致命的。外部要因そのものよりも、ショックに耐えられない内部構造の脆弱さこそが、破綻を決定づけた真因だったのです。

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問題は「戦略」ではなく「構造」だった

再建前のJALも戦略を欠いていたわけではありません。国際線強化、成田空港のハブ化、ワンワールドアライアンス加盟など、未来を見据えた施策を実行していました。

しかし――

不採算路線を切れず、収益力が改善しない
大型機(ジャンボ機)中心で、需要変動に柔軟に対応できない
債務超過状態で、投資や提携に打って出る体力がない

結果として、戦略と構造のミスマッチが経営を蝕んでいきました。

「破綻」は終わりではなく、始まりだった

2010年の会社更生法適用後、企業再生支援機構の下で抜本改革が行われました。

従業員数: 約1万6,000人削減(グループ全体で約3割のリストラ)
路線: 国内外合わせて49路線廃止
機材: 大型機の退役加速、燃費効率の高い中型機へ移行
債務: 約5,200億円の債務免除

そして再建を主導した稲盛和夫会長の下、「現場に責任を戻す」マネジメント改革と、「安全と効率の両立」を掲げた文化変革が同時に進められました。

破綻は、JALが“重たい構造”を脱ぎ捨てるための痛みを伴う出発点だったのです。

この分析にMBAの学びはどう活きるのか?

JALの事例から見えるポイントは、MBAで学ぶフレームワークに直結します。

MBAの論点 JAL事例からの示唆
経営戦略論 戦略よりも「実行基盤の整合性」が競争優位を決める
ファイナンス 資本構造(過剰債務)が戦略オプションを狭める
組織デザイン 国営文化を引きずった組織の変革難易度
変革マネジメント 危機を利用し、制度・文化を同時に変える方法論

JALの破綻は、戦略やリーダーシップ論だけでは語れない、構造と文化に根ざした経営のリアルを浮き彫りにしています。

次回予告

第2回では、JALが破綻後にいかにしてV字回復を遂げ、2012年には早くも再上場を果たし、世界でも稀な高利益体質を築き上げたのかを解き明かします。「再建モデル」と呼ばれた経営改革の中身に迫ります。

次の記事はこちら

【第2回】JAL再建はなぜ「奇跡」と呼ばれたのか?

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