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  • 2026/10/02公開
  • 2026/10/02更新

“指摘”で終わらない内部監査へ──現場を動かす改善提案の極意

“指摘”で終わらない内部監査へ──現場を動かす改善提案の極意

内部監査において「不備を指摘しても現場が動いてくれない」「改善提案が響かない」という悩みは少なくありません。監査部門が良かれと思って提示した正論が、現場の負担や反発を招いてしまうこともあります。

本イベントでは、株式会社山善で5年間にわたり内部監査部長を務め、現在はリスクマネジメント担当部長として活躍する森本英樹氏をゲストに迎えました。現場を動かす改善提案の極意、内部監査人に求められる資質、ポイントとなる視点、そして国際資格であるCIA(公認内部監査人)が実務にどう活きるのかについて、実体験をもとに語っていただいた内容をQ&A形式でレポートします。

登壇者紹介

森本 英樹 氏

森本 英樹 氏

株式会社 山善 リスクマネジメント担当部長
1991年入社後、コーポレート部門へ配属。その後、海外現地法人(台湾・シンガポール・中国・タイ)の管理責任者として、都合15年程度の海外経験を積む。2021年4月より内部監査部へ異動し、内部監査部長を5年間務めた後、現在に至る。
内部監査の高度化(準拠性監査からリスクベース監査への移行)に向けて体系的な知識の必要性を感じ、CIA(公認内部監査人)およびCFE(公認不正検査士)を取得。資格取得後は、より自信を持って監査意見を提示できるようになった。

Q1. 現場に響き、その先に続く業務改善提案を行うための重要ポイントは何でしょうか。

森本氏: 大きく4つの重要ポイントがあると考えています。

1つ目は「統制の不備から経営リスクを語る」ことです。単に「ルール通りにできていません」と不備を指摘するだけでは、現場は「だから何なのか」と感じてしまい、改善へのモチベーションは生まれません。その不備がどのような経営リスクにつながり、組織や担当者自身にどう影響するのかを具体的に伝えることが、動機付けには不可欠です。

2つ目は「不備の原因は人ではなく仕組みに求める」ことです。チェックが漏れた担当者個人の責任にするのは酷な場合があります。やりたくてもできない理由があるのかもしれませんし、そもそもルールが現場の実態に合っていない可能性もあります。属人的な指摘ではなく、仕組みそのものに焦点を当てることで、前向きな改善につながります。

3つ目は「できもしない正論より実行可能なプラン」を提示することです。例えば、人員が限られている組織に対して、厳格な職務分掌を求めても現実的ではありません。その場合は、事後的な発見統制などの代替案を提案すべきです。最初から100点満点を求めるのではなく、被監査部門の身の丈に合った及第点を提示することが重要です。

4つ目は「継続モニタリングの勧め」です。改善提案を自分事として捉え、自発的に取り組んでもらうために、進捗状況の見える化を提案しています。指摘事項や現場のプロジェクトを一覧化し、優先順位、重要度、責任者、期限を決めて定期的にモニタリング・情報共有する仕組みを作ることで、現場のモチベーション維持と、監査部門としての進捗把握の両立が可能になります。

Q2. 良い提言を行うために、内部監査人に求められるスキルや資質は何でしょうか。

森本氏: 良い提言を行うためのスキルや資質として、5つの要素を挙げています。

1つ目は「ビジネス感覚」です。相手の業務や状況をよく知らないままでは、的外れな指摘をしてしまいがちです。私たちの部門では、往査の1ヶ月から1ヶ月半ほど前から予備調査を行い、業界や地域、対象組織、取引内容などを徹底的に調べて仮説を立てるようにしています。

2つ目は「論理的思考」です。表面的な事象を指摘するだけでは、説得力のある提言にはなりません。仮説をもとに「なぜ」を繰り返し、客観的かつ論理的に真因を深掘りすることで、相手も納得感を持って耳を傾けてくれます。

3つ目は「コミュニケーション」です。相手に寄り添うこととおもねる(妥協する)ことは異なります。相手の立場を尊重し、不利益を被らないように助言するというスタンスを貫けば、言いにくい指摘や耳の痛い意見であっても、建設的に伝えることができます。

4つ目は「職業的懐疑心」です。不正調査などの場面で、上司から「性善説で相手を信用していた」という言葉をよく聞きますが、これは放置や見て見ぬふりの裏返しであるケースが少なくありません。監査においては、性善説や性悪説ではなく、人間は弱いものであるという「性弱説」の視点に立ち、見るべきポイントをきっちりと押さえる姿勢が求められます。

5つ目は「変革推進」です。環境変化が激しい現代において、監査人自身も常に知識をアップデートし、特にガバナンス領域に対する感度を高く保ち続ける必要があります。

Q3. 良い提言を行うにあたって、CIA(公認内部監査人)資格はどのように活きるのでしょうか。

森本氏: CIA資格は、内部監査の専門性を証明するだけでなく、実務に必要な体系的知識とスキルを身につけるための非常に強力なツールです。国際資格であるため、取得することで社内外からの信頼性が格段に高まります。

例えば、海外子会社への往査におけるクロージングミーティング(監査講評)で指摘や監査意見を述べる場面をイメージしてください。同じ指摘内容であっても、一般的な監査人からの言葉と、国際的なプロフェッショナル資格を持つ監査人からの言葉では、受け手側の捉え方や腹落ち具合が全く異なります。

内部監査人は、専門職として客観的に意見を述べる役割を担っています。だからこそ、その意見のバックボーンとなる資格を持つことは重要です。今後は「資格も持たずに、何を根拠に監査意見を述べているのか」と問われる時代が来るのではないかと感じています。

Q4. 現在のリスクマネジメント業務において、内部監査の経験やCIA資格はどのように活かされていますか。

森本氏: 現在はリスクマネジメント担当部長として、主に海外でM&Aを行った子会社2社のPMI(経営統合)プロジェクトに取り組んでいます。

具体的には、現行業務の把握、リスク分析、改善提案、そして内部統制の整備と運用といったプロセスを進めていますが、この一連の流れにおいて、内部監査部長として培った経験や、CIAの学習で得た体系的な知識がそのまま活かされています。

Q5. 監査人ごとの感覚の相違による監査品質のばらつきは、どのように改善・均一化すべきでしょうか。

森本氏: 監査人によって重要視するポイントや深掘りの度合いが異なるのは、ある意味で当然のことです。私が内部監査部長を務めていた際も、メンバー間での感覚の相違はありました。

このばらつきを解消するために、私たちの部門では頻繁にミーティングを重ねていました。役職やキャリアに関係なく、お互いに「なぜそこがリスクだと思うのか」を具体的に意見し合える環境を作ることが大切です。

また、監査対象領域の選定時はもちろん、監査調書を作成した際も、最終的な報告書にまとめる前に必ずメンバー全員で「読み合わせ」を行っていました。この読み合わせの場で意見を交わし、すり合わせを行うことで、組織としての監査品質の均一化を図っていました。

Q6. 被監査部門を深く理解するための工夫や、相手に腹落ちしてもらうためのアプローチについて教えてください。

森本氏: 被監査部門を理解するための情報収集として、同じグループ会社であっても業種や地域が異なる場合は、ジェトロ(日本貿易振興機構)の資料や、各銀行が発行している地域ニュースなどを参考に、地域の特性やリスクを把握するよう努めています。

また、現地に管理系の駐在員がいる場合は、事前にリモートでヒアリングを行い、日頃の困りごとや課題を聞き出します。駐在員にとっても「内部監査部からの指摘」という形にすることで、現地スタッフに対して改善を促しやすくなるというメリットがあります。

相手に腹落ちしてもらうためには、課題を放置した際のリスクを具体的にイメージしてもらうことが効果的です。「このまま放置すると、どのような不正リスクが生じるか」「万が一不正が発覚した場合、グループ全体にどれほど大きな影響が及ぶか」を伝えることで、当事者意識を持ってもらうようにしています。

Q7. グループ会社の監査における予備調査や、リスクの絞り込みにおけるこだわりはありますか。

森本氏: 予備調査やリスクの絞り込みにおいては、生成AIなどのテクノロジーを積極的に活用しています。

例えば、AIに対して「このような状況において、どのような改善策が考えられるか」といったシンプルな質問を投げかけるだけでも、非常に多くの視点や回答の候補を得ることができます。その膨大な候補の中から、現在の現場の状況に照らし合わせて「今、取り組みやすそうな項目」をチョイスしていくアプローチをとることで、効率的かつ効果的に内部統制の質を高めることができます。

Q8. 課題の真因が経営層や本社にある場合、妥協せず建設的に提言するための工夫はありますか。

森本氏: 私たちの内部監査部は社長直轄の組織であったため、監査ごとに経営層へ報告書を共有し、数ヶ月に一度は社長へ直接報告を行う体制をとっていました。

真因を追究した結果、経営層や本社側の課題に行き着いた際、経営層の受け止め方に温度差があることも事実です。しかし、一度の報告で反応が薄かったとしても、めげずに繰り返し報告や打ち合わせの機会を設けることが重要です。

「自分はこう考える」という意見を、客観的な事実とともに繰り返し伝え続けることで、最終的にはお互いに腹を割って建設的な議論ができる関係性を築くことができたと思います。

Q9. 営業部門から内部監査部門への異動は可能でしょうか。また、営業の経験はどのように活かせますか。

森本氏: 営業部門から内部監査部門への異動の機会は十分にあります。他社のケースですが、営業職や支店長としてのキャリアを経て、内部監査人として活躍されている事例はよく聞きます。

営業経験者は、ビジネスの最前線で「どのようなリスクが実際に潜んでいるか」を肌感覚で理解しています。この現場感覚は、机上の空論ではない実効性のある監査を行う上で、非常に強力な強みになります。ぜひ自信を持って挑戦していただきたいです。

Q10. 被監査部門との間でリスク感度にギャップがある場合、どのように埋めればよいでしょうか。

森本氏: まずは、なぜ相手がそのリスクをリスクとして捉えていないのか、その背景や考え方を理解することが最優先です。

全社的な視点でのリスクと、現場の視点でのリスクにはギャップが生じがちです。頭ごなしに指摘するのではなく、密なコミュニケーションを通じて相手の意見を丁寧にヒアリングし、ギャップの原因を紐解くことから始める必要があります。

Q11. 提言を行う際の「さじ加減」において、意識しているコツや考え方はありますか。

森本氏: ここでのさじ加減とは、手心を加えて指摘を甘くすることではありません。監査人として伝えるべき不備や課題は、妥協せずきっちりと伝えます。

その上で、相手の特性やリスク感度に合わせて、伝え方や表現を工夫することがコツです。例えば、リスク感度が高い相手であれば、具体的な脅威や影響範囲を深く掘り下げて説明するなど、相手が最も納得しやすいアプローチを選択することを意識しています。

編集後記

内部監査が単なる「指摘」に終わらず、現場を動かす「改善提案」となるためには、監査人自身のビジネス感覚やコミュニケーション、そして客観的な説得力を支える体系的な知識が不可欠です。森本氏のお話からは、現場に寄り添いながらも、プロフェッショナルとしての軸をぶらさない姿勢の重要性が伝わってきました。

CIA資格の取得は、その軸を確立するための確かな一歩となるでしょう。本イベントが、皆様の今後のキャリアや実務の高度化に向けた一助となれば幸いです。

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