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卒業生の声

Face to Faceじゃなくても、熱意は通ずる

Face to Faceじゃなくても、熱意は通ずる

山口 峻さん

マサチューセッツ州立大学MBAプログラム第4期卒業生
(2013年10月入学)
外資系出版社マーケティング部

  • 通信

-なぜMBAを目指したのですか?

大学生のころから経営者の本を読んでMBAを知り、いつかアメリカ(以下米国)のMBAに行きたいな、という気持ちがありました。例えば、三木谷浩史さんや新浪剛史さんはハーバード・ビジネス・スクール出身です。ハーバード大学でなくても、経営者には米国のMBAホルダーが多いなと感じました。世界を代表する企業の多くは米国にあるので、学ぶなら米国がいいんじゃないかな、というのが大前提にありました。社会人になり、経営に関わる仕事をするようになって、より米国に行きたいという気持ちが増しました。
いつか経営者になりたい、という気持ちに気付かされたのは、MBAを通じてですね。大学生のころ、友人と洋服を売るネットビジネスをしていました。Tシャツ作って売って。2人で、独学でAdobeRのソフトの使い方などを全部覚えて、WEBサイトを作っていました。Youtubeがない時代でしたが、動画に着目し、撮影してそれをサイトに埋め込む、というころまでやっていました。当時は「Tシャツなんか作ってないで、IT業界に行けよ」ってみんなに言われました。客観的に自分を見えてない部分もあって、やりたいことをとにかくやりたかったんです。だから失敗も多かったし、儲かるわけもない。大人の言うことを聞きたくない、そういう時期だったんだと思います(笑い)。 実は経営者になりたかった、という気持ちをMBAで掘り起こされた気がします。ビジネス自体は難しかったですね。いい経験になったなと思っていますが、経営者としては、甘かったと思いますね。学生で勢いはとんでもなくあったので、ベンチャースピリッツみたいなのは当時の方があったのかもしれません。
私はこれまでに2回転職しました。工学部出身だったので、最初はエンジニアとして製造業で6年勤務し、技術的な仕事をしていました。2~3年は開発などを担当し、残りは、経営開発室にいました。その後、半導体の外資系商社に転職し、海外の半導体を日本のメーカーに販売するという立場でマーケティングの仕事をしていました。

今は、マーケティング全般の担当をしています。プロダクトマーケティングだけではなく、一般的にいう4P「プロダクト」「プライス」「プレイス」「プロモーション」全般で戦略を練っています。特徴的な商品がたくさんあるので、市場を予測し、フォーキャスティングしてからPL(財務諸表)を分析・管理しています。

アカウンティング(会計)も含め、どのくらい市場性・利益があるのかを計算し、商品を開発しています。チャネルは基本書店ですが、それ以外にも適時作成していき、価格も決定します。プロモーションはテレビCMがメインですが、新聞や雑誌などにも広告を出し、戦略全般を考えています。担当は日本市場です。本社はイタリアですが、ワールドワイドで事業を行っています。例えばイギリスで売れている物があって、それを日本に持ってくるケースもありますし、日本で独自開発をして販売することもあります。当たり前ですが、値段を下げれば下げるほど売れます。ですが、限界があります。市場の飽和度もあるので、リサーチ・計算をし、ここまで下げれば限界まで取れうるだろう所と利益を考え決めています。

-なぜマサチューセッツ州立大学MBAを選びましたか?

まず、オンラインで取れるというのが大きい理由です。留学しなくてもいい。2年間キャリアを止めて、貯金して米国に行くというのはかなりリスキーです。費用もかかります。その点、日本で働きながらだったらなんとかなります。また、マサチューセッツ州立大学の立地がボストン周辺にあるという点も重視しました。ハーバード大学もMITもあります。マサチューセッツ州は教育人員に力を入れている州だと思いますし、そこでのクロスカルチャーも生まれてはいると考え、すごくいいんじゃないかなと思いました。AACSB認証についても、ないとMBAって言わないという気はします。

日本の経営大学院も当時検討しましたが、結局はAACSB認証があるMBAにしたのは、国際機関が質を管理しているという信用があり、そこがMBAで大事だと考えたからです。
基礎課程と上級課程に分かれていることも良かったです。基礎である程度慣れ、少しずつ難しくなるというのがいいと思います。上級の最後の2科目が1番辛いです。入学してすぐ最後の2科目をいきなりやれと言われたら絶対に無理です。でも、基礎課程で苦労して、上級でレベルアップしていくからこそこなせます。入学したてのころは最初の科目であってもきつかったです。勉強する習慣もないし、仕事との両立も慣れていないから当然です。そのスタートから自分が成長していって、常にその上が求められてくる感じです。振り返ってみると、宿題の量は上級に行くにつれて増えているんです。それをこなせる力がついていくので、基礎・上級に分かれていることがとても良いと思います。

米国現地にいる教授陣とも、強い信頼関係ができました。直接会っているかどうかを別にして、熱意は通ずると思うんです。すごく印象的な教授に対しては、メールを送るようにしていました。例えば私が教授に3文くらい送ると、長文で返してくれる人もいました。リーダーシップ論の先生は非常によく覚えています。私が尋ねたことの10倍くらいを常に返してくれるような熱い教授で、たくさん質問させていただきました。これってFace to Faceじゃなくても、熱意があれば通ずるといういい例だと思います。

-MBAを取得したことで、仕事などにどのような変化がありましたか?

当然のことですが、MBAを目指したのは経営を学びたかったからです。そう思って入学しました。しかしそこで衝撃的だったのは、「リーダーシップ論」の講義です。
経営のことは当然勉強します。ただ、それだけではなく、何のために生きるんだ、という問いかけから入ったのです。この先生のことは今でも忘れません。
「お前はなんでMBAに来たんだ」とか、「そもそもなんでお前は生きているんだ」っていうことを聞かれました。私は、経営者になりたいという潜在的な思いはありました。先生はそこから掘り起こしたのです。「じゃあお前の親は何をやっている人間なのだ」と聞いてきました。僕の祖父は創業者です。親父も独立して、自営業をやっています。そう考えると私は経営者のバックグラウンドを持っていると気づきました。友達の話も聞かれました。幼少時代どう育ったかとか聞かれて、思い返しても経営的なことが好きなんだなと。
この講義の最後のレポートは「人生の計画をしなさい」というのがミッションでした。20代からの人生60年計画を書かされました。10週間の中で、最初の5週間くらいは結構「お前は甘い」と言われるわけです。「お前の考え方じゃ社長としては甘い」と言われて、いろんな本を読むよう促されて…。長く働いた祖父の姿を描いて、最終的に私は死ぬまで働きたいなと考えて、レポートを作りました。
最後には、なぜ生きているのかまで突き詰めるわけです。本当にきつかったですが、最後にやりきって、感動して涙が出ました。
最後のレポートに対して教授が「俺はいつか、お前をニュースで見るのを楽しみにしている」っていうコメントがありました。涙がポロッと出ました。リーダーシップ論は、すごくアメリカ的だと思います。日本でこれを本当に学べるところがあるのかなと思います。同じことを日本語でやると恥ずかしいわけです。でも、英語だったから逆に、できたのだと思います。人生とはなんだと、よく尋ねられました。僕は恥ずかしながら、MBAに行くまでは、「成功」を目指してMBAを目指しました。でもそこで、人生って愛だな、っていうことに気付きました。生きがいはなんだと言われて、結局のところ、愛なんじゃないかなっていうことを、この先生は気付かせてくれましたね。
MBAを通じて経営を学び、お金のまわし方を学び、卒業後は投資ファンドやコンサルティングファームに転職する、というパターンがあります。でも、自分はそうじゃないということに、この先生に気付かせてもらいました。祖父は社長としていろんなサプライチェーンを築き、自分では贅沢をしないけれど地元に寄付などをしていました。その姿をとても尊敬していて、そうなりたいと思いました。私が経営者を目指す理由はそこにあったのです。
私がMBAで学んだことが3つあります。

1つは当然ですが「経営について」です。人様のお金をどう使うか、どうバランスよく使っていくかです。元々はこれだけを学びに行く予定で入学しました。でも、いざ入ったら違いました。
2つ目は「自分を知る」ということでしたね。自分の強みは何だ、ということでした。日本人としての強みもあるし、自分自身の強みもあります。日本人の中で僕は、優秀なバックグラウンドじゃないし、一流大学出身でもないけれども、逆に言うと、一般的な視点を持っているし、工学部と文学部という文理両学部を出ているので、いろんな人と上手く接することができます。B to Cビジネスには消費者目線が大切で、優秀な方が見失いがちな「一般」という視点を僕は持っています。

スタンフォード大学や東大卒の人とは経済の話もできる。でも、街の一般の人とも何気ない話ができます。これが自分の強みだということに気付けました。3つ目は「人生、生き甲斐とはなんだ」ということです。生きる意味です。これは、愛と自己実現・自己達成。この2つを両立することだというような論文を、リーダーシップ論で書きました。人生60年計画の1段落目は「人生とは愛と自己達成・自己実現」。若いころは、片方だけでした。「自分が良ければいい」「いかに目立つか」っていう世界でした。そこを反省して、バランスの重要性を意識し始めました。MBAの学びを通して、1つの軸ができた気がします。

―MBAの学びが役立った場面は?

マーケティング部門にいるので、マーケティングを分かっている人の中で働くわけです。このような状況では、財務会計やビジネス財務分析といった、MBAのマーケティング以外の領域の知見がまず生きてきます。ブレークイーブン・ポイント(損益分岐点)を計算するとき、ファイナンスの視点も入れて計算できます。出版社なので、本を作るお金もかかるし、それに付随したお金もかかります。

テレビCMを打つので広告費もかかるし、開発費もたくさんかかります。でも、これらがどこに会計されていくかというのを理解して計算しています。マーケティングプランの作り方は、基本は1つしかないので、どの業界にいても基本は一緒です。転職後マーケティングプランを作るのも全然大変だと思いません。新しい商品を理解し、競合のことを分析するのは少し大変ですが、基本のフレームは一緒なので、そこにはめるという意味では、どの業界に行っても全然苦ではありません。こういう力が付くことはMBAのいいところでもあると思います。

オペレーションマネジメントやオペレーション基礎に関係する領域ですと、テレビCMに打つか打たないかという意思決定に「ディシジョン・ツリー」のフレームワークを使いました。また、外資系ということもあって、いろいろなサプライチェーン、サプライヤーを使うので、取引先とうまく関係を築く意味で「チームビルディング」は役に立っています。

また、ケーススタディーの経験は役に立ちますね。迷っているとき、会社がうまくいかないとき、ビジネスがうまくいかないときを取り上げたケーススタディーは貴重です。うまくいっているときは、何をやってもうまくいくのです。けれども、うまくいかないときにリーダーシップを発揮してどのようにやっていくかということが実は一番大事です。経験上、業績が落ち込んだときに、文句が出てきます。「あいつが悪かったのではないか」とか「テーマが悪かった」とか、どんどん愚痴が出てきて、悪循環が出てきます。ケーススタディーの多くは、悪い時からどう取り組んで、どう回復していくかを学びます。もしくは、悪い時からそのまま倒産してしまうというようなケースもあります。企業に必ず訪れる「波」の底にいるとき、どう復活するか、スターバックスはこうだったとか、Appleはこうだった、という事例を参考にすることができるのが非常に役に立っています。

―転職市場でのMBAは評価されましたか?

評価されたと思います。最後の講義が7月末に終わって、少しゆっくりして、転職活動の準備をしました。そして9月頭から実際に動き始めると、面接に来ないかというオファーがたくさんありました。実質2週間で今の会社の内定が出ました。その間に1社内定をいただいて、もう1社も実質内定が目の前でした。面接が終わった瞬間に「合格です」って言われました。「すぐ来てください」って。オファーも、日本の大手企業とか、大手通信会社とか、大手家電メーカーとか、大手自動車メーカーのような名だたる企業からでした。

職種はマーケティングで探しました。マーケティングは私の強みです。数字も重要だし、消費者目線というか一般人の心を掴まないといけないという点は、自分の人脈やバックグラウンドとか生きると思うので、マーケティングを希望しました。今の会社は、新しい物を常に毎日作る、世の中にない物を常に作る状態なので、そういう意味では新しい物をどう生み出すか、どう売っていくか、どうビジネスにしていくかみたいなところは、評価されたかなと思いますね。はっきりいって、年収も上がりました。学費の投資は回収できました。

―UMassで人脈はできましたか?

卒業生のSNSグループがあります。大手企業はほとんど網羅しているのではないですしょうか。うちの会社は、どこか企業とコラボレーションをして仕事することが多いので、卒業生たちにヘルプ出します。「〇〇さんの企業と組みたいので打ち合わせをしませんか」というような感じで打ち合わせもします。とあるメーカーと車を出すという企画があるのですが、そこにもUMassの人脈を活用させていただきました。

UMassは、むしろ人脈は有利だと思います。なぜなら、アメリカのMBAであるために、英語に一定のハードルがあります。そこを選んで入ってくる人は間違いなく優秀と言えます。僕のバックグラウンドは優秀とはいえませんが、もっと輝かしいバックグラウンドを持つ人がたくさんいます。私もいろいろな日本の経営大学院を検討しましたが、絶対に負けないくらいのバックグラウンドの人がたくさん来ています。

-MBA学習を仕事やプライベートと、どう両立させましたか?

オンラインのMBAを通して、インターネットだけでもコミュニケ―ションがしっかり取れるというところにビックリしました。スカイプやグーグルハングアウトなど、ツールは充実しているので、時差さえ気にしなければすぐ、海外とチャットができるし、直接会ってないのに会ったかような仲にもなれます。受講当時大阪に住んでいたのですが、東京の方と毎日のようにチャットしました。卒業してから対面したのですが、昔からの友達のように打ち解けることができ、なんとも不思議な感覚でした。
また、最初に履修した「マーケティング基礎」の科目は、実際の課題をそのまま実務で実行しました。最後の課題が「できれば自分の会社のマーケティングプランを作りなさい」でした。だから僕は、仕入れ先のとある大手の半導体メーカー(ヨーロッパ)のマーケティングプランを作って、実際に提出し、そのまま実行しました。このレポートの評価はAでしたが、実務では、日本の全代理店の中で1番優秀なマーケティング賞を獲りました。

―英語は得意でしたか?

得意ではないですね。ただ、高校生の時に米国に1カ月行っていたのと、大学の時に工学部のほかに英文科にも行っていたんですね。そこで基礎的な英語力があったと思います。だけど、帰国子女ではないので外国人の同級生、ネイティブアメリカンの同級生と議論するのは大変でした。

基礎課程の時は、日本人中心ですが、上級課程では現地の学生と一緒にグループワークする機会もあります。米国人だけでなく、インド人と中国人が多かったです。アメリカのいい所は、アメリカ人だけではなく、優秀な人材が世界から米国に集まることです。ボストンの現地の講義にも参加したのですが、非常に高いスキルの人達が来ているなっていう気はしましたね。特に印象的なのはインド人ですね。強烈だったのは、ファイナンスの講義の時に、「この問題をやりなさい」と計算が入った問題を尋ねられて、私や隣の中国人は、一緒に教科書を読んでいる最中、手を挙げたインド人がいたんです。ウソだろ?って思いました(笑い)。

実際に計算をしてみると、合っているんです。彼らは信じられない速度で解きます。ハンパじゃないです。先生も多分、敵わないのでしょうね。「○○君、説明して」というと、その学生が式を書いて、解くと合ってるんです。衝撃的でしたね。逆に、その隣の中国人と仲良くなりました。「俺ら遅いよね、読むの」って。米国にいるからといって、みんなが英語が得意なわけじゃないし、英語だけが大事じゃないなっていう部分も分かりました。米国では、ネイティブな英語って、あるようでないんです。ボストンの大学にいるとなおさらです。外国人がいることで刺激になりましたし、日本人の良いところも分かりました。インド人は主張が強かったですが、日本人は調和を取れるという強みを知りました。会社って、優秀な人だけがいればいいわけじゃない。外国人同士で、コミュニケーションをとっていくと、意見を主張する人が多い。

MBAのバックグラウンド自体も主張する人が多いし。さらに人種も異なっていると、そこで上手く橋渡しできるような人は絶対必要です。私自身は割とその調整が得意でした。グループワークで宿題を出しなさいって言われると、揉めるわけですよね。AさんとBさんの意見が食い違うと揉めるけど、その間を取るようなものを出してあげるとか、逆にどっちかにつかなきゃいけない時もあると思うんですけど、そこは上手く、ここで落ち着こうって言ってね。

グローバル社会の中で、日本人的な良さは強みです。計算で勝負しようと思ったら勝てないんですよ、一生。逆に勝てることってなんだろうと思うと、それなりに成熟した市場を持って、それなりにいろんな業界があって、一流の企業も世界に通用する企業もそれなりにいっぱい持っていて、それを知っていることは生かせるし、文系と理系の能力の間を上手く取っていくというのは、出来るんじゃないですかね。

-これからマサチューセッツ州立大学MBAを目指す方へのメッセージをお願いします。

なぜMBAを目指すのか、志を高く持ってください。

私は、1社目の経営企画室でいろいろな失敗をして、大学生の時にもTシャツを売っていろいろな失敗をして、それでも経営者になりたいと思い、経営を学ぶためにMBAを目指しました。経営者として周りをしっかり支えるには、きちんとした経営のバックグラウンドを学んでいないと、僕に付いてきてくれた皆が不幸になってしまいますから、少なくとも、それでは嫌だという気持ちを持って入りました。勉強も楽ではありませんし、時には睡眠時間も削ります。そのため、こういう強い志がないと多分続かないと思うのです。

ここだけの話、いつか社長になりたいので、新しいネタを探しています。他の時間は、自分で起業ができないかなど探しています。出掛けて人に会ったり勉強もしたり、自分の事業計画のようなことを考えています。うちの会社は非常に特徴的なビジネスモデルをやっていて、ものすごく利益も出ています。ノウハウの塊なので、いつかそれを自分の会社でも生かしていきたいと考え、構想しています。私の趣味は釣りやゴルフですが、ゴルフよりは経営のほうが好きです。だから、経営のことを考えていると楽しくて寝られないくらいです。

山口さんは、まさに有言実行、2017年に起業されました。Youtuberと協力したマーケティングや、紅茶のブランドなど、複数のビジネスを手掛けています。若手のエネルギッシュな存在でありながら、謙虚に人やビジネスに向き合う姿勢はUMassアルムナイでも注目され続けています。