薬学や開発の知識だけでは不足していると感じ、MBAを取得したいと思うようになった。
これまでのキャリアについてお聞かせください
薬学部卒業後はR&D(「Research & Development」に数社勤務し、CRO,外資、内資を経験し、15年以上製薬業界に関わりました。大手外資での在籍が長く、そこで臨床試験における医療機関の担当業務、臨床試験管理、設計、製造販売承認申請などの臨床開発業務を経験した後、運よく若くしてコンパウンド(製品)の日本への導入・開発戦略の検討をするチームの責任者に抜擢していただきました。ここでは、開発外部門(マーケット・営業・製造メンバー)とともにライフサイクルマネジメントやマーケティング戦略・予算獲得なども経験し、このチーム自体が一つの会社の経営するようなものに感じられました。実際に、同僚やマーケ担当者はMBAを保有していたり、これまでにビジネスに関する教育や実務の経験を積んだりしていました。自分は大学でもそれまでのキャリアにおいても、薬学や開発の知識と経験しかないため、視野の狭さや知識不足を痛感しました。当時、職場は経験不足でも若手から育成するつもりで抜擢してくれていたことは承知していましたが、責任の重さと自分の無力さに苦しみ、小規模の会社に転職しながら、同時にMBAに挑戦しビジネス知識を広げたいと考えました。
なぜMBAの取得を考えましたか?きっかけと課題感についてお聞かせください
先ほどお話したように、コンパウンド(製品)の日本への導入・開発戦略の検討をするチームの責任者に抜擢していただいたことがきっかけです。専門分野の中では正しいと思える選択でも、ビジネス的な観点からはあまりよくなかったりすることがあったので。また各ポジションにはそれぞれプロフェッショナルがいますが、わたしはチームの責任者として、さらにその一段階高い視点から考える必要がありました。
それまで自分が持っていた薬学や開発の知識だけでは不足していると感じ、MBAを取得したいと思うようになりました。
どういう活用イメージをもって取得を決断しましたか
新薬の開発には、多大なコスト、時間、リソースが必要となり、複数のプロジェクトがいくつもオーバーラップして動きます。また、ステークホルダーは実際の顧客となる病院以外に、その先の患者さん、キーオピニオンリーダー、厚労省と関連当局、外資であればグローバル本社など多岐にわたります。
プロジェクトという会社経営に対して、必要となる知識やスキルを身に着けて検討やチーム運営ができれば、各関連部門が目標に向かって動きやすく、担当する薬品の価値を最大化できるようになるのではと思っていました。さらに開発以外の部門の価値観や業務も理解できれば、開発早期からプロジェクトを最短距離で適切なゴールに導けると思いました。
会社経営やそれに伴う決断に関して、自分自身が理解できるようになりたかったのはもちろん、いずれは会社に判断材料や武器などを提案できるようになることで、もっと貢献したいという思いがありました。
無意識に染みついている日本的な価値観が無いフィールドで学べるのが、海外MBAのいいところだと思った。
スクール選びの優先順位とその理由について教えてください
優先順位は次のとおりです。
①海外MBAであること
これは、世界に通用する最先端の知識を身につけたかったからです。実際、アビタスのMBAは常に新しい事例にアップデートされていてよかったと思います。
②オンライン受講が可能であること
仕事を続けたままで受講したかったからです。資金的にも、仕事を休んで対面の通学をするのは困難でした。
③受験までのハードルが低いこと
受験でGNATや英語力の準備に時間を使いたくないと思っていたからです。
④日本のサポートがあること
サポート無しの海外MBAも調べましたが、専門でない分野はついていけるか不安がありました。履修登録の方法やレポートの提出期限といったアドミニ関連もすべて英語でのやり取りとなると、これも不安要素になってしまいますよね。その点アビタスのMBAは、基礎部分は日本人講師で安心感がありましたし、上級の日本語サポートテキストも授業前から雰囲気をつかめるので非常に良かったです。履修してない科目のサポートテキストも見れる仕組みも素晴らしく、私も履修してない科目のサポートテキスト読んだり、実際にテキストもいくつか買って勉強してみたりしました。
なぜ海外MBA、かつAACSB取得の米国MBAである必要がありましたか
米国は経済の中心であり、各分野で多くのベンチャー企業が活躍することができるイノベーションの中心でもあります。ですから米国の大学で、日本の価値観に縛られないグローバルな目線で学習したいと思っていました。
実際、同じ題材や企業分析でも、ディスカッションの内容や先生の意見が変わるように感じました。ディスカッションにおいて、日本的な価値観では、どんな努力をしたのか、気配り、情熱、配慮などの過程が重視されがちです。ところがアメリカ系企業では、こういった過程や根回しは関係なく結論のみで評価されます。無意識に染みついている日本的な価値観が無いフィールドで学べるのが、海外MBAのいいところだと思います。
また海外の学生と交流したいという思いもありました。その中でさらに国際認証をもっていれば、教育水準が保障されていると考えていました。
オンラインであることをどう考えましたか
オンラインであることで、外国人はもちろん、世界で活躍する日本人と交流するチャンスがあるのは大きなプラスだと思います。もちろん対面で話せばその分距離が縮まりやすくはありますが、オンラインでも何とかする方法はあると思っていました。仕事でも海外との会議は基本的にオンラインで実施していましたし、テレワークもコロナ禍前から導入されていたので、オンラインが対面より学習効果が落ちるとも考えていませんでした。
開始前の英語力はどの程度でしたか
TOEICは800点以上取得していました。また、海外との会議や文書作成は英語が必要だったため、自分の専門分野についてのビジネス英語はある程度使いこなすことができました。会議も電話会議、WEB会議など、実務でも使っていたので、英語を話すことに苦手意識は持っていませんでした。
ただ、専門分野以外や日常会話においては、ボキャブラリー豊富とは言えない状態でした。形容詞、商品名、最新のこなれた言い回しなどは、先生によっては聞き取りが難しいこともありました。それでも動画では何回でも見直せるので、さほど困りませんでした。
許容できる費用とその考え方についてお聞かせください
許容費用に関しては、なんとなく500万円程度かなと考えていました。製薬業界ではキャリアアップのために薬学博士を取る人が多く、それにかかる費用が約500万円なんです。そういった環境の中で、私は人とは少し違うものを身に付けようかなという考えでした。
また、私の場合はあくまで自己学習であり、仕事で役立つとしても業務そのものに直結するものではなかったので、留学して1000万円という規模は想像できませんでした。MBAを取得したから給料が上がるということもないだろうと考えていました。ただ、実際に優秀な同僚がMBAを取得していたので、いずれどこかで仕事上評価されるかもしれないという期待は抱いていました。
基礎、上級の二段階式カリキュラムをどう受け止めましたか
本業以外の英語講義で十分理解できるか不安だったため、日本語で基礎課程を受けられるのは安心感がありました。実際に、上級では基礎で学んだことを応用するクラスがほとんどだったので、基礎をきちんと学んでから上級に上がったことで、上級での学習効果が高まったと思います。始めから上級のような学び方だと厳しかったと思いますし、基礎課程の存在と同期との合同勉強会に助けられました。
印象に残っている科目とその理由を教えてください
まず印象に残っているのはCM[Customers and Markets(顧客と市場)]です。上級課程の必修科目で、上級になってから一つ目の科目だったこともあり、そもそもBlackbordの使い方や先生とのコミュニケーションに不安がありました。そんな中でのグループワークで、毎週チームで1つのレポートを完成させる必要があったので、チームメイトとミーティングや情報交換を通じて絆が深まったと感じました。また一つの成果物を作り上げたことに達成感も感じました。
もうひとつは、SFI[Strategy Formulation and Implementation(戦略の立案と遂行)]です。SFIは上級課程の必修科目かつ最終科目で、毎週各自の業界や会社について分析しDiscussion bordに投稿する課題がありました。この授業を通して、業界によってビジネスの仕方が違うことを肌で感じることができました。海外の起業や海外の受講生との意見の違い、日本に対する反応など、興味深いことがたくさんありました。他業界を学べるということは、同時に自分の業界を学ぶことにもつながります。気づきをたくさん得られましたし、経営者がどう判断を下していくのかも理解でき、基礎から積み上げたことが全部つながったと感じました。
多業種、職種の同期との学びはどう感じましたか
正直、入学以前は他業種について興味も知識もありませんでしたが、様々な業界の事情を学ぶとともに、製薬業界の特殊性についても気づきがあり、視野が広がりました。製薬会社は基本的にBtoBですし、薬価も国がコントロールするなど大きな規制にしばられていますが、産業によっては製品そのもののスペックや価格設定、マーケティング手法によって製品価値をより大きくしていくことが可能です。規制の中でのやり方と、規制がない世界でのやり方は全く違うもので、私はそのこと自体を知らなかったので、多くの学びと気付きがありました。同期との会話は雑談をしているだけでも楽しく、他の業界への興味もわいてきました。
英語でのアウトプットには苦労しませんでしたか
インプットもアウトプットも知らない単語だらけで苦労しました。日常会話だとなんとなく雰囲気で乗り切ったり、プレゼン資料であれば端折った表現を使ったりできるのですが、フルセンテンスで残すとなるとそういうわけにはいかないので。英語力が足りていなかったなと感じましたね。
インプットに関してはDeepLという翻訳ソフトを使い、理解できない文章を翻訳して読みました。
アウトプットでは英語で文章を作る練習をしたかったので、日本語で書いてから翻訳することはできるだけ避けました。私の場合は、最初に書きたいキーポイントとアウトラインだけ日本語でメモし、英語でフルセンテンスにしていくやり方を取りました。最後に、英語で作成した文章の意味が通じるか、バックトランスレーションとして翻訳ソフトを使いました。ただ、フルセンテンス作成時も複雑な内容になるとうまく英語で表現できず、そういったときはDeepLを活用し、適切な単語や表現を何度も探しました。レポートでは、会話やプレゼンとは違って単語をしっかりと使う必要があるので、英語力の向上につながったと感じます。
上級課程での学びはどうでしたか
基礎で学んだ内容をどのように活用するかというコースが多かったように思います。調査のためにどういうデータソースを活用するか、何を参考にして考えるべきかの引き出しを増やしてくれたと思います。情報は日々アップデートされるため、どのフレームワークや基礎知識を応用して、最新の情報にアクセスし理解できるかが重要であり、そのためのトレーニングになりました。
また、ディスカッションやグループワークが多かったため、互いの知識や考え方の違い、得意不得意などがありました。こうした多様性を理解し、受け入れること、その上で全体を一つの方向性にまとめることなど、チーム運営に必要なリーダーシップやコラボレーションも学べたと思います。
入学前の期待値にあっていましたか
期待していた以上でした。自分の知る世界がいかに狭いものであったかを知り、より学習意欲がわいてきました。
「この人は凄い!」と感じた学生(同期に限らず)はいましたか
みんなすごかったので、個人を挙げるのは難しいですが…。同期同士や同じ科目受講中の仲間で勉強会を開催することが多かったのですが、自分がすでに解き終わっている・理解している宿題や内容なのにも関わらず勉強会に参加して、追い付いていない仲間にレクチャーしてくれる人が何人もいました。そんな、仲間のために時間を割いて協力してくれる優しさと熱意を尊敬していました。直接的な答えは教えずにレクチャーしてくれる仲間もいて、こういった助けがあったからくじけずにやり遂げられた部分もあります。
また、私は独身かつ在宅勤務も可能だったので時間の使い方は自由だったが、出張や出社をして家事育児をしながら受講している人たちは大変だったと思うので、それでもやり遂げていることはすごいと思っていました。
よりハイレベルのレイヤーから物事を俯瞰し、長期的なスパンで業務をとらえられるようになった。
入学前の課題感と活用イメージは叶いましたか
はい、叶いました。他部門との連携で感じるのは、よりハイレベルのレイヤーから物事を俯瞰し、長期的なスパンで業務をとらえられるようになったなということです。それにより、短絡的で自分勝手な判断をせず、周りの意見を適切に求めることができるようになりました。会社の経営陣の考え方や組織変更の意味も理解できるようになり、不安が減ったという面もあります。
同期生とのコミュニケーションは続いていますか
続いています。同期の飲み会も定期的に開催されていますし、一緒に卒業旅行に行ったメンバーとはLINEで日々で交流し、卒業後も何度かお会いしたりしています。
学びが実務にどう役立っていますか
今やっている仕事は開発なので、実務には直結しないものの、自分の業務範囲を超えた先の全体のゴールを意識できるようになってきました。ポテンシャルが広がったと感じます。
学位が、キャリアアップや転職に生きましたか
年収や業務内容に変化はありません。在学中、コロナの影響もありつつ、会社や事業環境の変化をみて転職しました。在学当初は内資中小企業にいましたが、米国系外資大手に戻りました。同じ開発での転職であり、以前のようなリーダーではなく逆に臨床開発に絞られた職務になりましたが、大手外資の組織体制や変化など、内資企業と比較すると整理されリーズナブルだと感じます。
卒業した今は、製薬会社の中でのキャリアにとどまらず、広くキャリアオポチュニティーをとらえていて、起業や副業で何か社会貢献にも生かせないかと思っています。最近は、住んでいる地域の活性化のために地域事業者とインバウンド誘致プロジェクトなども開始しました。地元を愛する住民による自然と歴史を伝えるようなガイドツアーがあれば、ランドマークに飽きた外国人に刺さるのではないかと思っています。MBAで学んだフレームワークをさっそく活用するなど、自分でも役に立てることがあるんだと自信につながっています。
また、今後のビジネス環境にはデータ活用による課題解決が必須となってくることも学んだため、新たにデータサイエンスやIT技術に関する学習を深めたいと思い、次の自己学習の目標となりました。
これから目指す方へのアドバイスや激励をお願いします
やらない後悔は、やってする後悔より取り返しがつかないと思います。新しいことを始めるのは不安とエネルギーが必要になりますよね。でも、色々考えすぎなくても、とにかく飛び込めばなんとかなるし、仲間がいるから私でも大丈夫でした。早く学べばそれだけ早く次の世界が広がるので、迷っている方は思い切って飛び込んでほしいと思います。
どんなに忙しくても、英語が苦手でも、最大5年も在籍できると思えばどうにでもなっちゃいますよ!