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  • 2022/04/13更新

リース会計をめぐる動向

目次
わが国のリース会計基準の動向
基準間のリース会計の差異
IFRS第16号へのコンバージェンス
IFRSを理解するために何を学ぶべきか

わが国のリース会計基準の動向

 現在、わが国の財務会計基準機構(ASBJ)は、IFRSとのコンバージェンスの一環として、企業会計基準第 13 号「リース取引に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第 16 号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、「リース会計基準等」という。)を改正しています。この改正によって、現状で資産及び負債が認識されているファイナンス・リース取引のみならず、すべてのリースについて資産及び負債が認識されることになり、リース会計基準等の改正に関する基本的な方針として、IFRS 第 16 号「リース」の「単一モデル」を基礎として、IFRS 第 16 号と整合性を図る程度が検討されています。

 リースが実務に広範に利用されている状況を考慮すると、簡素で利便性が高い基準を目指すことが考えられる一方で、IFRS 任意適用企業からは、IFRS 16 号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる基準開発の要請があります。これらを踏まえると、IFRS 16 号のすべての定めを採り入れるのではなく、主要な定めのみを採り入れることにより、簡素で利便性が高く、かつ、IFRS 16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となることが必要と考えられています。

 例えば最近の議論では、「再リース」のようなわが国固有の商習慣が問題となっています。「再リース」とは、契約に基づいて当初のリース期間の満了後も当該リース資産の使用収益を継続することをいい、一般的には、1年契約で、年額基本リース料の12分の1程度の再リース料を支払うことが更新事項として契約されるものを言います。IFRS16号には「再リース」の定めがありませんが、わが国のリース会計基準等においては、現行のリース取引に関する会計基準の適用指針第29項 において、「再リース期間を耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として、発生時の費用として処理する」と定められています。このように、日本のリース実務固有の「再リース」については、現行のリース会計基準等の取扱いを継続し、追加的な負担を軽減する方向で議論が進められています。

各基準間のリース会計の差異

 IFRS16号は、借手の会計処理に関して、借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う借入金等に類似する負債(リース負債)を認識するモデル(使用権モデル)に基づき、短期のリース及び少額資産のリースを除く、すべてのリースに係る資産及び負債をバランスシートに認識することとしています。

 一方、米国会計基準審議会(FASB)が2016年に公表した会計基準更新書第 2016-02 号「リース(Topic 842)」(以下、「Topic842」という。)も、すべてのオペレーティング・リースについて、費用処理から使用権資産及びリース負債を認識することに改めました。

 しかし、リースに係る損益認識に関しては、IFRS 16 号は、すべてのリースは借手に対する資金提供を含む取引と捉えて、使用権資産の減価償却費と借入金等に類似する負債に係る金利費用を別個に認識する「単一モデル」を採用しているのに対し、Topic 842 は、従前と同様の方法でファイナンス・リース(減価償却費と金利費用を別個に認識する。)とオペレーティング・リース(単一のリース費用を認識する。)に区分する 「2 区分モデル」を採用している点で異なっています。

 また、わが国のリース会計基準等は、資産の所有に伴うリスクと経済的便益の実質的な移転の有無の観点から、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類し、基本的に、資産の所有に伴うリスクと経済的便益のほとんどすべてが実質的に借手に移転している場合には、ファイナンス・リース取引とし、そうでない場合は、オペレーティング・リース取引としています。また、ファイナンス・リース取引については売買と同様の会計処理を行いますが、オペレーティング・リースに関しては、通常の賃貸借取引と解釈してリース資産及びリース負債のオフバランス化を許容しています(リース取引に関する会計基準第15項 )。

IFRS第16号へのコンバージェンス

 では、なぜIFRS16号が定める使用権モデルが、今やグローバルスタンダートとなっているのでしょうか?IASB(国際会計基準審議会)及びFASB2010年に公表した公開草案「リース」は、この使用権モデルについて、次のような長所があるとしています。

  1. ファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かにかかわらず、あらゆるリースから生じる資産と負債が貸借対照表上に反映される。これにより、比較可能性の向上につながり、また、取引を仕組む機会を減少させることが可能となる。
  2. IASB や FASB の概念フレームワークにおける資産及び負債の定義と整合する。使用権資産は、リース契約の締結という過去の事象によって借手が支配する資源であり、当該資源から将来の経済的便益が借手に流入することが見込まれることから資産の定義を満たす。一方、リース料支払債務は、リース契約の締結から生じる借手の現在の義務であり、その決済により、経済的便益を有する資源が借手から流出することになると見込まれることから負債の定義を満たす。

たとえば、現行の日本基準において、リース契約がファイナンス・リースに該当しない場合は、当該リース取引はオペレーティング・リースとして会計処理されます。オペレーティング・リースに区分される場合、自社で購入した資産と同様に使用し利益を得るにもかかわらず、会計上はオンバランスする必要がないため、利益に対して相対的に資産が小さくなり、企業にとって、ROA等の資本に対する収益性が改善するなどの効果が期待できます。個別のリース契約がファイナンス・リースに該当するためには、フルペイアウト(現在価値基準)及びノンキャンセラブル(経済的耐用年数基準)の要件を満たす必要があります(リース取引に関する会計基準の適用指針第9項)。

①フルペイアウト(現在価値基準)

解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件を借手が現金で購入す るものと仮定した場合の合理的見積金額の概ね 90 パーセント以上であること

②ノンキャンセラブル(経済的耐用年数基準)

解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね 75 パーセント以上であること

いずれの要件も、契約上、「概ね」数値基準を満たしていれば、ファイナンス・リースに該当すると実質的に判断されますが、その一方で、これらの数値基準に抵触しないようにリース契約の条件を設定すれば、ファイナンス・リースの判定を回避することも可能と考えられます。同じ資産を使用して利益を得ているにも関わらず、契約条件によって、オペレーティング・リースと判定されることは、財務報告の比較可能性を著しく低下させることになります。

また、IFRS16号 では、リース取引の定義について、「リースとは一定期間にわたり対価と交換に原資産を使用する権利を移転する契約または契約の一部である」(IASB 2016aAppendix A)としています。ここでは、リースによって取引の対象となるものがリース物件としての「原資産」そのものではなく、「原資産を使用する権利」であることを表している点に特徴があります。IFRS16 の認識対象が「権利」であるとする定義は、IASB 概念フレームワークにおける資産の定義と整合的な関係にもなっています。すべてのリース取引がリース期間にわたりリースされた資産を使用する「権利」を移転することに着目し、原則として、オペレーティング・リースを含むすべてのリース取引をオンバランスする使用権モデルは、オペレーティング・リースの不透明性を排除し、財務報告の比較可能性を向上させる点において、財務諸表利用者のニーズを満たすことが期待されているのです。

IFRSを理解するために何を学ぶべきか

IFRSを学ぶ方法として、IFRS基準書を読みこむのが王道かもしれませんが、英文基準書の独学は困難を極めます。短期間で効率よくIFRSの原理原則を学習いただくためには、アビタスのIFRS講座がおすすめです。

講座には、実務家講師によるeラーニング講義や、基準書の内容を分かりやすく書き起こしたテキスト(基準書の英文も併記し、日本基準との差異も解説)、学習質問サービスなどが含まれ、IFRSの原理原則を短期間で学ぶことができます。

まずは無料の資料請求か、説明会にご参加ください。

監修

岡田 博憲
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、
同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IFAC(国際会計士連盟)中小事務所アドバイザリーグループ
テクニカル・アドバイザー、IFRS財団 SME適用グループ(SMEIG)メンバー。
公認会計士。USCPA。

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