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  • 2026/08/31公開
  • 2026/08/31更新

現場の心を動かす内部監査へ。現役内部監査人が明かす「響く改善提案」と5つの必須スキル

現場の心を動かす内部監査へ。現役内部監査人が明かす「響く改善提案」と5つの必須スキル

内部監査において、単に不備を指摘するだけでなく、現場の業務改善につながる実効性のある提言を行うことが求められています。
しかし、せっかくの提案も「理想論にすぎない」「監査目線で現場の実態に合っていない」と受け止められ、形骸化してしまうケースは少なくありません。

本イベントでは、株式会社山善の内部監査部長であり、現役の内部監査人として活躍する森本英樹氏が登壇。
現場に響く改善提案の作り方や、監査人に求められるスキル、CIA(公認内部監査人)資格の活かし方について、実務での具体的なエピソードを交えて語っていただきました。

登壇者紹介

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森本 英樹(もりもと ひでき)氏

株式会社山善 リスクマネジメント担当部長
1991年に入社後、コーポレート部門を経て、台湾をはじめ海外4拠点で通算約15年間勤務。
国内部門と海外部門を経験した後、2021年4月より内部監査部長を務める。CIA(公認内部監査人)およびCFE(公認不正検査士)の資格を保有。

Q1. 現場に受け入れられ、実行に移してもらえる「響く改善提案」を行うためのポイントは何でしょうか。

森本氏: 現場に響く改善提案を行うためには、大きく分けて4つの重要なポイントがあると考えています。

1つ目は、統制の不備から経営リスクを語ることです。

単に「ルール通りにできていません」と不備を指摘するだけでは、現場は「だから何なのか」と感じてしまい、改善へのモチベーションは生まれません。

その不備がどのような経営リスクにつながり、組織や担当者自身にどのような影響を及ぼすのかを、具体的かつ丁寧に伝えることが重要です。

2つ目は、不備の原因は人ではなく仕組みに求めることです。

マニュアル通りに運用できていないからといって、担当者個人の責任にするのは酷な場合があります。実際にはやりたくてもできない理由があるかもしれません。

ルール自体が現場の実態に合っていない可能性もあるため、属人的な指摘を避け、仕組みそのものに焦点を当てることが前向きな改善につながります。

3つ目は、できもしない正論より実行可能なプランを提示することです。

例えば、職務の分離が理想であっても、人員に限りのある小規模な組織では実現が困難です。

そうした現場に対して無理に職務の分離を求めるのではなく、事後的な発見統制や代替案を提案すべきです。いきなり100点満点を求めるのではなく、被監査部門の身の丈に合った、実行可能な及第点を提示することが大切です。

4つ目は、継続モニタリングのすすめです。

改善提案を自分事として捉え、自発的に取り組んでもらうために、取り組み状況の「見える化」を提案しています。

指摘事項やプロジェクトを一覧化し、優先順位、重要度、責任者、期限を定めて定期的に進捗を確認できる仕組みを作ります。
これにより、現場の責任者もやるべきことが明確になり、監査部門との情報共有もスムーズになります。

現場の責任者は、新たなチェックの追加による業務効率の低下やコスト増を懸念しがちです。
そうした懸念に対しては、既存の形骸化したチェックを廃止して新しい工夫を取り入れるなど、現実的な選択肢を提示するようにしています。

ただし、意思決定や実行を行うのはあくまで執行側です。現場に寄り添いつつも、提言としてのアドバイスという境界線を踏み越えないよう、自己監査にならないためのバランス感覚を常に意識しています。

Q2. 現場に響く提言を行うために、内部監査人に求められるスキルや資質について教えてください。

森本氏: 内部監査人として良い提言を行うためには、5つのスキルと資質が必要だと考えています。

1つ目は、ビジネス感覚です。

被監査部門の業務や背景を深く理解していなければ、的外れな指摘になってしまいます。
私たちの部門では、往査の1ヶ月から1ヶ月半ほど前から予備調査に時間をかけます。

組織目標や過去数年の業績・人員の推移、組織図、内部統制フローだけでなく、ジェトロ(日本貿易振興機構)や銀行の資料から地域特性を調べ、本社のコーポレート部門にもヒアリングを行ってリスクを想定した上で、監査プログラムを策定しています。

2つ目は、論理的思考です。

表面的な不備を指摘するだけでは、現場を納得させる提言にはなりません。
「なぜそうなっているのか」という仮説と検証を繰り返し、客観的・論理的に真因を深掘りしていく姿勢が求められます。

3つ目は、コミュニケーションです。

相手に寄り添うことと、おもねることは異なります。

相手の立場を尊重し、不利益を被らないように助言するというスタンスで臨むことで、耳の痛い指摘や諫言であっても受け入れてもらいやすくなります。

4つ目は、職業的懐疑心です。

ヒアリングの際に部門長などが「部下を信じているから、性善説で運用している」と口にする場合は注意が必要です。
これは適切な内部統制が行われていないサインである可能性が高いからです。

監査や不正調査においては、性善説でも性悪説でもなく、人間は弱さに流されることがあるという「性弱説」の視点を持つことが重要です。

5つ目は、変革推進力です。

環境変化が激しい現代において、内部監査人も常に知識をアップデートしなければなりません。

私自身や部下も、不正調査への対応力を高めるためにCFE(公認不正検査士)の資格を取得するなど、専門領域を広げる努力を続けています。

Q3. 内部監査の実務において、CIA(公認内部監査人)の資格はどのように活きていますか。

森本氏: 内部監査人は、専門職として客観的に意見を述べる立場にあります。

実務の中で「何をベースにその意見を言っているのか」と現場から問われた際、グローバル基準であるCIAの資格を保有していることが、自身の意見の客観性と信頼性を担保する強力な裏付けになります。

また、海外での実務においてもCIAの価値を強く実感しました。

海外拠点では、日本国内以上にCIA資格に対する認知度やステータスが高く、資格を持っていることでプロフェッショナルとしての意見として、現場にスムーズに受け入れられるという経験を何度もしました。

Q4. これからCIAの資格取得を目指す方や、学習を検討している方へメッセージをお願いします。

森本氏: CIA資格の取得は、内部監査人としてのキャリアを大きく前進させる第一歩です。

仕事をしながらの勉強は大変で、私自身も業務の忙しさを言い訳に何度も挫折しかけましたが、腹を括って挑戦したことで、実務に直結する多くの知識とスキルを得ることができました。

資格を取得したことで、プロフェッショナルとしての自信と信頼が生まれ、経営層からの見られ方も良い方向に変わったと感じています。

今後、コーポレートガバナンス・コードの改訂なども予定されており、ガバナンス領域の重要性が高まる中で、CIAの価値はさらに高まっていくはずです。
変化と挑戦に満ちた非常にやりがいのある仕事ですので、ぜひ資格を取得し、未来の内部監査部門を切り開くリーダーとして共に活躍していきましょう。

Q5. 監査項目や内部監査の手法は、どのような頻度で見直していますか。また、直近で対応が大変だった変化について教えてください。

森本氏: 監査項目は、決められたルーティーンをただ回すのではなく、被監査部門の状況に合わせて都度テーラーメイドのように作り上げるべきだと考えています。

基本的な項目は維持しつつも、組織の特性や課題に応じて、部下とのミーティングを重ねながら常に監査項目を見直す運用をしています。

直近で最も対応が大変だった変化は、2025年1月に適用が開始された「グローバル内部監査基準」への対応です。

これに伴い、内部監査規程や内部評価の手法を大幅に見直す必要がありました。
前例がない中で一から見直しを行い、取締役会にかけて最終承認を得るまでのプロセスは非常に骨が折れる作業でした。

Q6. 事前ヒアリングの際、被監査部門に監査の目的をどのように伝えていますか。現場にネガティブに捉えられないためのコツがあれば教えてください。

森本氏: 監査通知を送った直後などに、事前のミーティングを設けるようにしています。

その際、まず「内部統制ができていないから見に行くのではない」という点を明確に伝えます。

アプローチのコツとしては、現場責任者の交代や新規システムの導入、業績の急拡大といった「変化が大きい部分」に着目していると説明することです。

「勢いがある部門だからこそ、今のうちにしっかり確認して後々のリスクを防ぎましょう」という伝え方をすると、現場も前向きに、監査を受け入れてくれるようになります。

Q7. 内部監査チームは森本さんを除いて全員30代とのことですが、どのような経緯でそのメンバー構成になったのでしょうか。

森本氏: 私が異動してきた当初は、定年前のベテラン社員が集まる、いわゆる「最後の勤め先」のような雰囲気の組織でした。

しかし、内部監査でキャリアを終えてしまい、そこで得た会社全体を俯瞰する貴重な経験が他部門に還元されないのは非常にもったいないと感じていました。

そこで経営層に対し、「内部監査の経験は将来の大きな財産になる。若くて優秀な人材を送り込んでほしい」と強く訴え続けました。

優秀な若手・中堅が内部監査を経験し、そこで得た知見を将来的に第1線や第2線部門で活かすサイクルを作ることが、会社全体のガバナンス強化につながると考えたからです。

また、優秀な若手が真摯に指摘することで、現場側も前向きに耳を傾けてくれるという効果も実感しています。

Q8. 第2線(管理部門など)とのコミュニケーションは、具体的にどのような部署と、どの程度の頻度で行っていますか。

森本氏: 業務監査の特性上、財務経理部や、売掛金・在庫・買掛金管理などを担当する営業管理部といった第2線部門とは非常に頻繁にやり取りをしています。

あえて定期的なミーティングの場を固定しているわけではありませんが、監査の準備や実施時期などの多いときには、週に2〜3回は直接足を運んで話を伺ったり、こちらに来てもらって情報交換をしたりしています。

現場に最も近い第2線と密に連携することが、効果的な監査につながります。

Q9. 生成AIの台頭は、内部監査の実務にどのような影響を与えていますか。また、現在どのように活用されていますか。

森本氏: 私たちの部門でも、すでに生成AIの活用を始めています。

具体的には、監査調書をまとめた後に、それを監査報告書の形に仕上げる際の「たたき台」の作成にAIを使用し、その後に人間が推敲するという方法をとっています。

また、来期の監査計画を策定するリスクベースアプローチにおいて、リスクの発生確率を5段階で評価・整理する際にもAIに意見を求めるなどして活用しています。

まだ模索段階ではありますが、今後さらに有効な活用方法を見出していきたいと考えています。

Q10. 自身が経験したことのない不得意な分野の監査を行う際、どのようなことを心がけていますか。

森本氏: 私自身もすべての領域に精通しているわけではありません。

不得意な領域、例えばIT監査などを行う際には、社内の専門部署である情報システム部門などの知見を借りるようにしています。

場合によっては、その部門のメンバーを「ゲスト監査人」として監査チームにアサインすることや外部の知見、経験を頼ることも検討します。

最も避けるべきなのは「分からないのに分かったふりをして監査を進めること」です。
これは被監査部門にとっても会社にとっても不利益にしかならないため、徹底して排除しています。

Q11. 若手・一般社員の立場として、事業部長クラスへの事前ヒアリングや報告の際に緊張してしまいます。うまく進めるためのアドバイスはありますか。

森本氏: 30代の私の部下たちも、やはり事業部長クラスを相手にするときは非常に緊張しています。

自分が一生懸命に調べた内容であれば、本人が直接説明するのが一番伝わりますが、どうしても不安な場合は、上長(内部監査部長など)に同席を依頼することをおすすめします。

緊張のあまり、ヒアリングで本当に確認すべき核心部分にたどり着けないまま終わってしまうのが一番のリスクです。

事前に上長に「この部分のヒアリングに不安がある」と正直に相談し、バックアップしてもらいながら経験を積んでいくのが良い方法だと思います。

Q12. CFE(公認不正検査士)とCIA(公認内部監査人)のダブルライセンスを検討していますが、どちらを先に取得すべきでしょうか。

森本氏: 私の経験からは、まずCIAを先に取得することをおすすめします。

CIAの試験範囲は非常に幅広く、内部監査の基礎からガバナンス、リスク管理までを網羅しています。

このCIAで学ぶ領域は、CFE(公認不正検査士)やCISA(公認情報システム監査人)の学習範囲とも大きく重なっています。

そのため、先にCIAを体系的に学んでおくことで、その後にCFEやCISAの学習に進んだ際にも、基礎知識がある状態でスムーズに理解を深めることができます。

Q13. IIA(内部監査人協会)の基準には「保証業務」と「助言業務」がありますが、実務における比率はどのようになっていますか。

森本氏: 正直なところ、現在は「保証業務」が大半を占めており、比率としては8対2程度です。

アドバイザリーやコンサルティングといった助言業務だけを単体で求められるケースはまだそれほど多くありません。

しかし、保証業務のプロセスにおいて、監査の指摘事項として改善提案を行うこと自体が、実質的な助言業務としての役割を果たしているとも言えます。

最近では、監査後に「この分野について研修を行ってほしい」「さらに深掘りしてアドバイスがほしい」といった要望が現場から自発的に寄せられることも増えており、助言への期待は高まっていると感じています。

編集後記

本イベントでは、現役の内部監査人として第一線で活躍する森本氏より、現場の信頼を得るための極意が語られました。

単なる「不備の指摘」にとどまらず、現場の仕組みに目を向け、実行可能な代替案を提示する姿勢は、多くの内部監査人にとって実務の大きなヒントとなったのではないでしょうか。

また、グローバル基準であるCIA資格が、監査人の意見に客観的な説得力を持たせるための強力な武器になるというお話も印象的でした。

ガバナンスの重要性がますます高まる中、専門性を磨き続けることの価値を再確認できる貴重な機会となりました。

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