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  • 2026/02/20公開
  • 2026/02/20更新

IFRS検定は意味ない?実務家が語る評判の真偽と価値

IFRS検定は意味ない?実務家が語る評判の真偽と価値

SNSの喧騒:「IFRS検定は意味がない」のか

最近、SNSやネット上の掲示板で「IFRS検定なんて受けても意味がない」、「実務に直結しない」といった極端な意見を目にすることがあります。確かに、検定試験に合格したその日から、複雑な上場企業のIFRS財務諸表を完璧に作り上げたり、難解な会計処理の妥当性を監査法人と対等に議論できたりするわけではありません。しかし、この「役に立たない」という評価について、私はIFRSという巨大な体系の「入口(検定・理論)」と「出口(実務・判断)」を混同しているように思えてなりません。

私たちは今、かつてないほど不確実な経済環境の中にいます。M&Aの加速、ビジネスモデルのサブスクリプション化、インフレと金利政策の不透明感、そしてIFRS第 18号(財務諸表における表示及び開示)に代表される基準の劇的な変化。こうした荒波の中で、断片的な知識だけで泳ぎ切ることは不可能です。本稿では、なぜ今あえて「IFRS検定」という形で体系的に学ぶ意義があるのか、その本質を掘り下げてみたいと思います。

「ルール・ベース」から「プリンシプル・ベース」への脱却

日本基準に慣れ親しんだ私たちがIFRSに触れたとき、最初に戸惑うのは「正解が書かれていない」ことではないでしょうか。細かな数値基準や雛形が示される日本基準(ルール・ベース)に対し、IFRSは原理原則(プリンシプル・ベース)を重視します。SNSで「役に立たない」と断じる人の多くは、おそらく「検定の問題を解いても、実務の個別のケースの答えが載っていない」ことに不満を感じているのでしょう。しかし、それこそがIFRSの本質です。IFRSの実務とは、具体的な取引を「財務報告に関する概念フレームワーク」という抽象的な物差しに当てはめ、自ら論理を構築して「判断」するプロセスそのものです。

IFRS検定に向けた学習は、単なる暗記ではありません。なぜこの資産は公正価値測定するのか?なぜこの収益は「一時点」ではなく「一定の期間」で認識するのか?その「思想」を学ぶ過程です。この基礎体力(ファンダメンタルズ)がなければ、実務で直面するイレギュラーな事象に対して、説得力のある会計方針を策定することは不可能です。私自身、ある事業会社の収益認識の妥当性を検討した際、収益が総額表示であるべきか純額表示であるべきか(本人か代理人か)を巡って経理担当者と何度も議論した経験があります。条文を読むだけでは答えが出ず、最終的には契約の経済実態を丁寧に整理するところからやり直しました。そのとき初めて、プリンシプル・ベースの意味を実感しました。

「点」の知識を「線」につなげる体系学習の効能

実務の中で、必要に迫られて特定の基準(例えばIFRS 第16号のリース会計など)だけをピンポイントで調べることはよくあります。しかし、その「点の知識」だけでは、会計情報の全体像を歪めてしまうリスクがあります。

IFRS検定のカリキュラムは、主要な基準書を網羅的にカバーしています。棚卸資産から金融商品、従業員給付、法人所得税、そして連結財務諸表に至るまで、それらがどのように相互に関連し、一つの財務諸表を作り上げているのか。その全体的な構造を俯瞰して理解することは、独学や断片的な実務経験だけでは得がたい視点です。

例えば、企業買収やグループ再編(M&A)の現場を想像してください。のれんの減損テスト一つとっても、単に計算式を知っているだけでは不十分です。将来キャッシュ・フローの見積りや、CGU(資金生成単位)の特定の背後にある「IFRSの思想」を理解していなければ、監査人や投資家を納得させるストーリーは描けません。検定合格というプロセスは、バラバラだった知識を一本の「線」につなげ、実務で迷わないための「地図」を頭の中にインストールする作業なのです。

AI時代にこそ問われる「言語化能力」と「専門性」

昨今、生成AIの進化により、単純な仕訳作成や開示項目のチェックは自動化されつつあります。こうした時代において、会計専門家の価値はどこに残るのでしょうか。
それは、複雑なビジネス上の事象を「会計言語に翻訳し、説明する能力」に他なりません。

「この取引は経済実態としてどのような支配の移転を伴うのか?」
「有用な財務情報の質的特性に照らして、どの表示方法が忠実な表現と言えるのか?」

こうした問いに答えるためには、基準の文言を丸暗記しているだけでは不十分です。検定試験を通じて、体系的な理論の裏付けを持って自分の言葉で語る練習を積むことが、AIには代替できない専門家としての信頼につながります。

特に、これからキャリアの円熟期を迎える世代にとっても、あるいは若手にとっても、世界共通の言語であるIFRSをマスターしていることは、所属する組織を超えた「ポータブルなスキル」となります。

結論:プロとしてのスタートライン

確かに、検定に受かっただけでは実務の達人にはなれません。しかし、地図を持たずにジャングルに飛び込むのが無謀であるのと同じように、IFRSの体系的な理解なしにグローバルビジネスの最前線に立つのは、あまりに危険です。

SNSでの評価に惑わされる必要はありません。「役に立つか、立たないか」を決めるのは試験そのものではなく、合格した後にその知識をどう実務に繋げ、どう自分をアップデートし続けるかという、学習者自身の姿勢にかかっています。

IFRS検定への挑戦は、自らの専門性を研ぎ澄まし、世界基準の視座を手に入れるための最高の自己投資です。基礎を固めた者だけが見ることのできる、より深く、より戦略的な会計の世界がそこには広がっています。そのためにも、この学びを単なる資格取得に終わらせず、一生モノの武器として磨き続けていくことが大切だと思います。

▼ IFRS合格者の多くがここからスタートしています

監修

岡田 博憲(おかだ・ひろのり)
ひびき監査法人パートナー、アビタスUSCPA(米国公認会計士)、IFRS Certificate(国際会計基準検定)各プログラム講師
ひびき監査法人 代表社員 公認会計士

朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)、朝日アーサーアンダーセン株式会社、新橋監査法人を経て現職。上場企業の監査、アドバイザリー業務に多数従事し、IFRSの研修も実施。
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IASB 中小企業向けIFRS適用グループ(SMEIG)メンバー、国際会計研究学会会員。公認会計士。USCPA。

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