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CIA実務者インタビュー

【vol.4】日本の内部監査にグローバルスタンダードを

三角 光浩さん
日本ペイントホールディングス株式会社 監査部 監査室

  • CIA(公認内部監査人)合格時期:2009年
  • 学習期間:1年半
  • ご経歴:
    慶應義塾大学商学部卒。三井住友銀行監査部、総務部などを経て、2020年から現職。CIA(公認内部監査人)、CFE(公認不正検査士)。

日本の内部監査にグローバルスタンダードを

CIA(公認内部監査人)実務者インタビューの第四弾として、日本ペイントホールディングス株式会社の三角さんにインタビューをさせていただきます。

2006年から銀行で内部監査キャリアをスタートし、中国現地法人で内部監査部門長を9年間務めるなど海外経験が豊富な三角さん。今は世界有数の総合塗料メーカーに移って内部監査をされています。「日本と海外の間には内部監査の地位と貢献度にギャップがある」と、内部監査のあるべき姿についてグローバルな目線で語っていただきました。

記事内容はインタビュー当時のもので現在は異なる場合があります。予めご了承ください。

CIA(公認内部監査人)で学んだ内部監査のスタンダード

どのような経緯でCIAを取得しましたか?

三角さんは、海外企業の内部監査経験が豊富です。「事業会社の雰囲気はとても自分に合っている」と笑顔で語ってくれました。
私が内部監査に従事し始めたのは2006年です。当時は銀行の監査担当として、東南アジアにおける内部監査を東京から見るミッションを担当していました。その中でキャリアが長く専門性の高い海外の内部監査人と一緒に仕事を重ね、スタンダードを知ることの重要性を感じるようになっていきました。そこでCIA(公認内部監査人)の取得を考えるようになり、2009年頃に動いて実際に資格を取得しました。

ちょうどCIAを取得したタイミングですが、2009年から2011年にかけては、実は総務部の海外コンプライアンスを統括する室に配属され、2線(リスク管理部門)の仕事をしていました。ただ、CIAで学んだ3線(内部監査部門)のグローバルスタンダードの考え方は、2線においても非常に役に立ったと感じています。

2011年には中国現地法人の内部監査部門長に就くことになり、9年間にわたって上海で仕事をしました。海外では部下に資格者が多くいるため、スタンダードに則った形で指揮監督をする必要性を強く感じました。判断に困ったり悩んだりしたときに、CIAで学んだ知識が指針になったことが多々ありました。

2020年1月に帰国して銀行の監査部に戻りましたが、3月に出向する話が出て、現在は日本ペイントホールディングス株式会社の内部監査部門で働いています。シンガポール資本とより関係が強化されている中、海外パートナーとうまく協力あるいは統制していくうえで、スタンダードに則るという部分はやはり重要になるだろうと考えています。

検査とは異なる内部監査の役割

海外経験が豊富な三角さんですが、日本において内部監査を行う際に問題を感じることはありますか?

コロナ禍ではリモート監査を実施したとのこと。リモートでは製造現場を目視確認できないことは当然ですが、できたことととできなかったことをきちんと記録に残すことを意識している、と話してくれました。
日本の内部監査は検査からスタートしているという歴史的カルチャーがあって、今は経営者の考え方が変わってきている途上にあると思います。内部監査は企業活動に伴うリスクの低減や業務の効率性・有効性の向上によって企業価値を向上させるために行うものですが、手続きのエラーを発見することが目的の検査と混同している人が、日本の会社には時々いらっしゃいます。

この点については、やはり内部監査の理解をより深めていく必要があると思います。まずは監査の目指す目的を共有する必要があると考えていて、今の会社では初めに経営層に対してそれを伝えました。銀行の監査部から来た人とポジティブに見ていただいていることもあり、興味津々に聞いていただけたという感触を持っています。

また、これから内部監査を進めていく中で、スタンダードに則った内部監査を受けてこなかった人もいらっしゃるはずです。そういった人に対して内部監査がどういうものかを教えるというのも、大きな課題の1つだと考えています。

銀行から事業会社に移りましたが、どのように内部監査を進めていくイメージを持っていますか?

私がいつも意識しているのは、発見事項があった場合にリスクは何かとはっきり言うことです。もし「そういうリスクはない」と主張されるようであれば、その理由を教えてもらいます。「それは確かにリスクだ」と認識していただければ、そのリスクを小さくするための方法を一緒に考えていきます。

内部監査人としてやらなくてはいけないのは、リスクを全て伝えて、リソースをつぎ込むべきリスクに気付いてもらうことです。これをやらなければ財務上の損失につながる、レピュテーション(評価)上の問題がある、当局上の問題があるなどとはっきり伝えた上で、イメージを持ってもらうことがすごく重要だと考えています。

高めるべき日本における内部監査の地位

日本において内部監査部門の地位はあまり高くなく、内部監査は年齢を重ね、キャリアを積んでからやるものと考えている人も少なくありません。一方、海外における内部監査人は積極的に能力を高めるためにさまざまな努力をしており、専門的な知識に基づいた尊敬されるべき地位を築いています。

日本と海外の間には内部監査の地位と貢献度にギャップがあるため、海外に進出した会社の中には、そのギャップを埋められないで苦労しているところも多いのではないかと思います。

例えば、日本の会社はよく出張して現地調査を行う割には、一番の目的が経営者への報告になっている場合がほとんどです。現地としては何かしらのアウトプットやフィードバックを期待していますが、私の経験上、それをやっていない会社が多いというのが日本の特徴です。現地からすると、「こいつらは何しに来たんだ」となるでしょう。

これは最近日本企業にも浸透してきているホールディングス経営にも言えることです。もちろん経営層への報告も必要ですが、ホールディングスが持つ価値観を共有して、何を現地に求めていくのかをアウトプットとして見える形で示すことが、とても重要です。これができていない会社が、日本ではまだまだ多いと思います。

内部監査の醍醐味は「良かった」と言われること

最後に、内部監査の面白さはどこにあるのか教えてください。

インタビュー時はCISA(公認情報システム監査人)を学習中。知識の習得を強く意識されていました。
内部監査人にとっての醍醐味は、相手に感謝されることだと思います。内部監査人の仕事は、勉強して先に得た知識を教えていくことです。教えたことで業務が改善され、「良かったです」と言ってもらえるのが最も良いことだと思います。

私自身、現在CISA®(公認情報システム監査人)の資格取得を目指していますが、内部監査人はどんどん新しい知識を身に付けることが大切だからです。今のこの時代、業務監査をする上でシステムのリスクを知っておく必要があると考えています。

私が中国で内部監査部門長をしていたときは、部下を教育するためにBIG4(大手監査法人)による研修をアレンジしていました。そうすると、他の部門の人たちも勉強したいと言うので、1線(現場部門)や2線の人にも参加を許可していたことがあります。

内部監査に関する知識は、3線だけでなく1線や2線の人も知っておいたほうがいいと私は考えています。ただ、そういうことについて、監査部門に教育をさせる企業はまだ少ないのが現状です。日本ペイントにも若い人がいますが、やはり資格を取ってほしいですし、いろいろな意味で継続的に勉強できる環境を整えていくことが望まれると思います。

編集後記

海外での実体験もさることながら、今まさにご自身の会社でグローバル化が進んでいることを踏まえて、日本企業の内部監査部門が目指すべき姿についてリアリティのあるお話が伺えました。
視座を高め、広げていくにはまずは「スタンダードをおさえること」、この重要性を強く感じました。

日本ペイントホールディングス株式会社公式サイト