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CIA実務者インタビュー

【vol.3】内部監査人が持つべきプロフェッショナルとしての自覚

藤井 聡さん
株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングス 監査室室長

  • CIA(公認内部監査人)合格時期:2015年
  • 学習期間:2年
  • ご経歴:
    大阪外国語大学(現在の大阪大学)外国語学部卒。三井住友銀行アジア部、グローバル・アドバイザリー部、監査部などを経て、2016年から現職。

内部監査人が持つべきプロフェッショナルとしての自覚

CIA(公認内部監査人)実務者インタビューの第三弾として、株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングスの藤井さんにインタビューをさせていただきます。

銀行員としてのキャリアを歩む中、50代半ばで監査部に異動して内部監査に携わることになった藤井さん。今では世界有数のエンタテインメント・コンテンツやサービスを提供するゲームソフト開発会社において、4年にわたり監査室長を務めておられます。「サラリーマンとしての内部監査ではなく、内部監査のプロフェッショナルとして会社にいるというぐらいの意気込みが必要」と真っすぐな思いを語っていただきました。

記事内容はインタビュー当時のもので現在は異なる場合があります。予めご了承ください。

銀行における最後のポストとして監査部へ

ご経歴と内部監査に携わることになった背景を教えてください。

藤井さんは、銀行からゲーム開発会社という異色の経歴の持ち主です
私は大学を卒業して都市銀行に入社し、銀行に30年余りにわたって在籍しました。銀行員は一連のポストで現場を経験した後は監査部に行くことが多いですが、私も50代半ばで現場から監査部に移り、そこで5年程監査の経験をしました。CIA(公認内部監査人)の資格もこの間に取得しています。

銀行では監査部が最後のポストになることが多く、その後は銀行に指定された関係会社や取引先に行くのが通常です。私は少し珍しいパターンだと思いますが、「最後の職場ぐらいは自分で決めたい」という思いがあったので、自分で転職先を探して現職の監査室に転職しました。今では4年程監査室長を務めています。

転職にあたり私は内部監査部門を希望しましたが、幸いなことに何社かからオファーをいただくことができました。CIAが採用判断における決定的なポイントになったわけではないと思いますが、転職先を探す段階においてはかなり効果があったと感じています。

監査を経験して感じた「面白い」

CIA取得を目指したきっかけは何ですか?

「スクウェア・エニックス」といえば「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」、「ドラゴンクエスト」といえば「スライム」ですね。
銀行の中での花形の部署は現場で、監査部は業務を知っている人が最後に行く部署というイメージを元々は持っていました。しかし、実際に監査部で監査の仕事をしてみて、「監査の仕事は面白い」と私は感じました。

銀行の現場にいると「収益を上げる」「ノルマを達成する」という方向にどうしても行ってしまいますが、監査部では「会社のために何ができるか」ということに自然と集中できたからです。そこから監査という仕事をライフワークにしたいと考えるようになり、CIAにもチャレンジすることにしました。

私の場合、監査について何も知らないところからのスタートでしたが、この仕事をしていく上で自分のスキルや知識を証明するものが必要だと感じました。会社の同僚にも言っていますが、内部監査をプロフェッショナルとしてやり続けていくつもりであれば、CIAは取得しておいたほうがいいと思います。

CIAで学んだ内部監査の本質

CIA(公認内部監査人)の勉強を通じて学んだことはありますか?

CIAの試験は日本によくある試験と違い、答えがはっきりしているものが少ないという印象があります。何度も問題を解いて答えを覚えればいいというのではなく、内部監査の本質を理解しないと解けない問題が多々あります。

単に問題を解くだけでなく、内部監査の本質をよく勉強できたことはとても良かったと感じています。実際に監査している中でも判断に迷う場面がありますが、そんなときにはCIAで学んだことに立ち返るようにしていました。

試験にも何度か出てきましたが、内部監査の本質は「会社の目標達成を支援する」というところにあります。会社全体でこのことに対する理解が深まれば、内部監査はもっと生きてくるはずです。監査部門に限らず経営者や現場にも、CIAの知識が広く浸透していくといいですね。

大切なのは監査のストーリーを知ること

これからCIAを目指す人に向けてアドバイスはありますか?

監査のヒアリングでも話しやすい雰囲気を作るのは大切です。藤井さんとのお話は自然と弾みます。
CIAの勉強を始めるのは早いに超したことはないと思います。ただ、CIAの試験における3つのPart(科目)のうち、監査の実務を扱うPart2は実際に監査をやらないとイメージがわきにくいところがあるかもしれません。まずは内部監査に欠かせない基礎知識が学べるPart1や、ビジネス知識全般を確認できるPart3から始めるといいと思います。

私自身もPart2は苦労して何度か不合格を経験しています。それ以外のPartは順調でしたので、「これに合格しないと今までやってきたことが全部無駄になる。絶対に最後まであきらめない」という思いをモチベーションに変えて頑張りました。

不合格となったタイミングでは勉強方法も変えました。単に問題を解いているだけでは合格できないと思ったので、内部監査に関する一般的な本をいろいろと読みあさりました。問題を解くことよりも、監査のストーリーを知ることに力を入れました。一度問題から離れることで知識が整理されて、最初は何を言っているのか分からなかった問題が意外と簡単に分かるようになったりするものです

一般事業会社の監査は百社百様

銀行からゲームなどのデジタルエンタテインメントを提供する会社に移りましたが、監査では違いを感じましたか?

「スクウェア・エニックス」といえば「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」、「ドラゴンクエスト」といえば「スライム」ですね。
銀行の監査部には数百名単位の優秀なスタッフがいて、監査の仕組みは日本の中でもトップレベルです。ただ、銀行独特のルールのようなものがたくさんあり、画一的な側面もあると思っています。

一方、事業会社に出て実感したのは、会社が100社あれば100通りの監査があるということです。会社のテーマに合わせて監査をしなければいけないというのが難しいところでもあり、同時に面白いところでもあります。

転職して最も難しかったのは、内部監査で大前提となる会社の業務を理解するという部分です。当社はゲームを中心とするデジタルエンタテインメント以外にも、アミューズメントや出版、ライツ・プロパティ等の領域の事業を展開しています。

自分にはゲーム開発の経験はないので、全ての領域においてスタッフに「どういうプロセスで作っているのか」「何がリスクなのか」など、ヒアリングしていく必要がありました。

ただ、ヒアリングに対する抵抗のようなものは、全くありませんでした。若い人が多いからか、むしろ話を聞いてもらってうれしいというところもあって驚きました。今の会社では、現場の人と一緒になって考えていくというスタンスを意識するようにしています。

自由と規制のバランスが難しい

銀行とエンタテインメントを提供する会社では、両極端と言えるぐらい大きな違いがあります。銀行は金融という業務の性質上、ルールをしっかり固めておく必要があります。一方、エンタテインメントを提供する会社では自由であることが良い製品を作る原動力につながる側面もあり、ルールに囚われない自由度が求められるところもあります。

私には銀行のルールをしっかり固めるという文化が染み付いていますが、それをそのまま当社に当てはめようとしてもうまくいきません。最低限のところを見極めながら、ルールを変えていく必要があると考えています。

どのレベルでリスクマネジメントを行っていけばいいのかは、会社によって正解が異なります。自由度を重んじるほうがいいのか、それとも規制を強めたほうがいいのかというところのすり合わせは、日頃から非常に難しいと感じている部分です。

内部監査人はプロフェッショナルであるべき

日本における内部監査は今後どうなっていくべきですか?

メタルキングのぬいぐるみ越しの藤井さん。「スクウェア・エニックス」らしさが伝わるでしょうか?
私は銀行時代に海外拠点を担当していましたが、そこで感じたのは海外の内部監査人は職業監査人でプロフェッショナルだということです。内部監査人をずっと目指してきた人たちなのでレベルが高く、プライドを持って内部監査に取り組んでいました。日本もそのようになったらいいなと思います。

日本では、内部監査人は企業に属しているというイメージがどうしてもあります。それは会社の業務も知らなくてはいけないという背景があってのことですが、やはり内部監査人はプロフェッショナルであるべきだと考えています。どの会社に行っても内部監査人として活躍できるスキルが今後は一層必要になるでしょう。

そのためには、私たち自身が自覚を持つことが大事です。サラリーマンとしての内部監査ではなく、内部監査のプロフェッショナルとして会社にいるのだというぐらいの意気込みが欲しいところです。

編集後記

終始柔らかい雰囲気でお話してくださった藤井さん。 インタビューは、ご自身のご経験やお考えを整理する「いい機会になった」と言っていただきました。
監査は会社によってさまざまだからこそ、どの会社にいっても活躍出来るスキルを身に付けてお仕事に活かしている姿が印象的でした。

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