本ウェブサイトでは、Cookieを利用しています。本ウェブサイトを継続してご利用いただく際には、当社のCookieの利用方針に同意いただいたものとみなします。

  • 2021/11/29公開
  • 2026/02/17更新

のれんの償却におけるIFRSと日本基準の差異

のれんの償却におけるIFRSと日本基準の差異

巨額「のれん」の衝撃

2021年5月、株式会社セブン&ホールディングスは、米国でSpeedwayブランドにて運営するコンビニエンスストア事業及び燃料小売事業を運営する複数の企業を約2兆3千億円で買収し、約1兆3千億円という巨額ののれんを連結貸借対照表に計上しました。驚くべきことは、のれんの金額の大きさもさることながら、同社は日本基準を適用しているため、今後、年間約650億円の償却費を連結損益計算書に計上することになります(同社は、のれんの償却方法及び償却期間について、20年間の均等償却を会計方針として選択しています)。

のれんの計上及び償却費が同社の将来の財務内容に与える影響は決して小さくないことは容易に想像できますが、企業買収の局面でしばしば話題になる、「のれん」とは一体何でしょうか?本稿では、会計上の「のれん」の正体を明らかにするとともに、IFRS及び日本基準のそれぞれでどのように会計処理されるのかを解説したいと思います。IFRSと日本基準の間の代表的な会計基準差異と聞けば、まずのれんの話が出てくるかと思いますが、のれんの会計処理は、歴史的にも議論の絶えないトピックとなっているのです。

会計上の「のれん」とは何か?

のれんとは、いわゆる取得のれんを指し、取得企業が事業を取得した際に支払った対価から被取得企業の識別された資産・負債の純額を差し引いたものをいいます。IFRS第3号(企業結合)によれば、のれんには以下のものが含まれていると考えられています(IFRS3.BC313)。

IFRSにおける「コアのれん」の概念

① 被取得企業の既存の事業における継続企業要素の公正価値(認識された資産・負債には個別に反映されていない、被取得企業が継続的に高い収益率を生み出す源泉。例えば、競合企業が容易に参加できない市場の参入障壁や能力の高い人材、カルチャー等)

② 被取得企業が取得企業と統合されることから生じる買収後のシナジー(取得企業が被取得企業の販売チャネルを用いて自社製品を販売することによる売上増加、あるいは、生産拠点が統合されることによるコストの削減等)

IFRS第3号によれば、これらの構成要素は「コアのれん(core goodwill)」と表現され、米国基準も同様の定義を置いています(FAS 141.B313)。取得企業の経営者は、通常、将来の事業の拡大や成長等を見越して企業を買収しますが、まさに「コアのれん」の取得そのものが経営者の買収目的に他ならないのです。「コアのれん」は、取得企業に将来の経済的便益をもたらしますので、IASB(国際会計基準審議会)は、のれんはIFRSの概念フレームワークにおける資産の定義を満たすとの結論を下しています。

のれんの純度とPPA(取得原価の配分)

また、概念的にはのれんの一部ではありませんが、取得対価の過大払い又は過少払いといった「不純物」ものれんの一部を構成することがあります。これらは、本来、のれんに含めて計上すべきものではありませんが、私たちの日常生活の買い物でもあるように、合理的な判断を欠いたことにより、つい高く買いすぎてしまった、あるいは、たまたま運よく安く買えたといったことがM&Aの現場でもしばしば生じます。これらはいわば、企業買収時における「不純物」ともいうべきものですが、IFRSでは早晩、減損処理によって除去できるものと考えられています(IFRSの減損処理については後述)。

また、買収時の企業価値評価においては、①や②の構成要素と判断した部分がそのままのれんになるケースはまれであり、実務的には企業結合において取得した契約・法的要件もしくは分離可能性要件を満たす識別可能な無形資産が、のれんと区別して認識されます(IFRS3.B31)。いわゆる取得原価の配分(Purchase Price Allocation:PPA)に伴う無形資産評価が行われることにより、のれんの純度はより高められるのです。

IFRSと日本基準の差異

本題である「のれん」の会計処理について、IFRSと日本基準の主要な論点を比較します。
まず、会計処理の主な違いを一覧表で整理します。

項目 IFRS 日本基準
のれんの償却 償却しない(非償却) 償却する(20年以内)
毎期の評価 減損テスト(最低年1回) 規則的な償却+減損の兆候判定
減損テストの頻度 兆候の有無に関わらず最低年1回実施 減損の兆候がある場合に実施
負ののれんの処理 発生した期の純損益(P/L)として一括認識 発生した期の特別利益として一括認識
減損損失の戻入れ 不可 不可

IFRSにおけるのれんは、米国基準と同様に非償却とされ、少なくとも年に一度の減損テストが要求されています。一方で、日本の会計基準では、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却し、減損の兆候がある場合には、減損テストを実施するとされています。すなわち、日本の会計基準ではのれんは一定期間にわたり償却され、のれんの簿価が逓減していくのに対し、IFRSでは減損が生じない限り、のれんの簿価は当初の金額のまま据え置かれます。また、企業を買収した後、取得企業の業績が悪化した場合、減損テストによって多額の減損損失が計上されることがあります。毎期簿価が逓減する日本基準の償却・減損併用モデルと異なり、IFRSの減損モデルは、財務諸表の利用者が経営者の買収判断の是非や買収後のパフォーマンスを測定するために有効であると考えられています。

なお、2004年のIFRS第3号発行前は、IAS第22号に基づき最長20年の償却が行われていました。当時、IASBが非償却へ変更した理由は、のれんが費消されるパターン(耐用年数)を予測することは困難であり、定額法による償却は恣意的になりがちであること、そして厳格な減損テストによってその価値を事後的に検証可能であると判断したためです。

「のれん」の会計処理の行方

2020年3月にIASBより公表されたディスカッション・ぺーパー(DP)「企業結合 - 開示、のれん及び減損」では、のれんの償却再導入の是非が主要な論点となりました。IASBの予備的見解は「償却を再導入しない(非償却の維持)」というものでしたが、ボードメンバー内でも意見は割れており、僅差での決定であったことが当時の議論の白熱ぶりを物語っています。

のれん償却の再導入に賛成する意見

のれんを償却することに賛成する意見は、のれんが償却されないと、のれんが過大計上されてしまうことを懸念しています。その理由は、そもそものれんの価値は時の経過とともに減価する(つまり、企業はのれんを費消している)と考えており、のれんを償却しない場合には、結果として、会計基準で認められていない「自己創設のれん」を計上してしまうと考えられています。また、減損のみモデルでは、のれんの価値の低下をタイムリーに認識できないことも指摘されています(いわゆる、「too little, too late」問題)。

のれん償却に反対する意見

一方、のれんを償却することに反対する意見は、財務諸表を利用する投資家の多くが、のれんの償却費を財務分析から除外していることや(財務分析上、のれんの償却費を足し戻している)、のれんの耐用年数を見積ることは実務上不可能で、のれんの償却費は恣意的な金額でしかないと主張しています。また、現状の会計処理を変更するには、コストを上回る明確な便益が証明されていないことも反対派の根拠となっています。

米国FASBの動向と今後の影響

米国のFASB(財務会計基準審議会)が2019年10月までコメント募集していた「識別可能な無形資産およびのれんの事後の会計処理」では、「減損のみモデルを支持」と「償却を支持」のコメントが混在していた点ではIASBのDPと変わらないものの、コメント提出者の半数以上が償却を支持していました。その結果、2020年12月のFASB会議では、のれんを定額法で償却することが暫定決定されました。しかしながら、FASBは2022年6月の会議で、「費用対効果が十分ではない」としてこのプロジェクトの優先順位を下げ、技術的議題(Technical Agenda)から外すことを全会一致で決定し、事実上の中止を決定しました。

これを受け、IASBも2024年3月に公開草案「企業結合-開示、のれん及び減損(IFRS第3号及びIAS第36号の改訂案)」を公表し、のれんの非償却を維持することを暫定決定しました。 その代わりに、財務諸表の利用者が当該企業結合のパフォーマンスを直接評価できるようにIFRS第3号の開示要求事項を改訂することで、情報の有用性を高める方針を固めています。これにより、長らく続いた「償却・非償却論争」は、非償却維持という形で一旦の決着を見ています。

IFRS(非償却)のメリットと実務上のデメリット

IFRSが採用する減損モデルは、企業のP/L(損益計算書)に日本基準とは異なる影響を与えます。実務上の主なメリットとデメリットは以下の通りです。

メリット:M&A後のP/L(利益)への影響


日本基準では、冒頭のセブン&ホールディングスの例のように、巨額ののれん償却費を毎期発生し、P/L上の営業利益や経常利益を圧迫します。
一方、IFRSではこの定期的な償却負担がありません。そのため、買収によって生み出されたキャッシュフローがそのまま利益に反映されやすく、特に大規模なM&Aを継続する企業にとっては、日本基準採用時よりも利益が大きく計上される傾向にあります。これが、経営陣にとって積極的な投資判断を後押しする要因の一つとなっています。

デメリット:巨額の減損損失リスクとボラティリティ


非償却である代償として、IFRSでは買収事業の業績が低迷した際、減損テストを通じて一時的に多額の損失を計上するリスクを抱えています。償却によって簿価が段階的に減少していく日本基準に対し、IFRSでは価値の毀損が露呈したタイミングで損失が一気に顕在化するため、財務諸表の変動性(ボラティリティ)が極めて高くなるリスクがあります。
実務面では、毎期の規則的な償却計算が不要になる一方で、兆候の有無に関わらず実施される毎年の減損テストが極めて大きな負担となります。 割引率の算定や将来キャッシュ・フローの見積もりなど、高度な専門判断と膨大な作業工数が要求されるため、決算実務や監査対応の難易度は日本基準よりも格段に高まります。
また、のれんの簿価が維持され続けることで、M&Aで取得した当初の価値と、その後の経営努力によって構築された「自己創設のれん」がB/S上で混在してしまいます。これにより、本来減損すべき取得のれんの価値低下が、「自己創設のれん」の価値によって隠されてしまう効果が生じ、財務諸表の利用者が買収の真の成否を判断しにくくなるという側面も指摘されています。

「負ののれん」の会計処理の違い

これまでは支払対価が被取得企業の純資産額を上回るケース(通常の「のれん」)を見てきましたが、実務では逆に、支払対価が取得した純資産の時価を下回るケースも存在します。
これは割安な価格で企業を買収できたことを意味し、この差額はIFRS上、「割安購入益(負ののれん)」と呼ばれます。この「割安購入益(負ののれん)」の会計処理についても、両基準で差異が存在します。

  • 日本基準:負ののれんが発生した場合、これを発生した期の「特別利益」として処理します(発生した期に一括で利益として認識)。
  • IFRS: 発生した期にP/L(損益計算書)上で純損益として一括認識する点は日本基準と同様です。しかし、IFRSにはそもそも「特別利益」や「経常利益」といった日本独自の利益区分が存在しません。そのため、P/L上は営業利益などに含まれる形で計上されることになります。なお、2027年1月1日以後に開始する事業年度より、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が原則適用されることにより、負ののれんは、企業結合(買収)という投資活動から生じるものであるため、IFRS第18号の原則的な分類では「投資区分」に計上され、「営業区分(営業損益)」の外に押し出されることになります。結果として、日本基準の「特別利益」と同様に、IFRS 第18号でも本業の稼ぐ力(営業利益)からは除外される形となり、日本基準に近い表示構造へと収束することになります。

IFRSを理解するために何を学ぶべきか

IFRSを学ぶ方法として、IFRS基準書を読みこむのが王道かもしれませんが、英文基準書の独学は困難を極めます。短期間で効率よくIFRSの原理原則を学習いただくためには、アビタスのIFRS講座がおすすめです。

講座には、実務家講師によるeラーニング講義や、基準書の内容を分かりやすく書き起こしたテキスト(基準書の英文も併記し、日本基準との差異も解説)、学習質問サービスなどが含まれ、IFRSの原理原則を短期間で学ぶことができます。

まずは無料の資料請求か、説明会にご参加ください。

監修

岡田 博憲(おかだ・ひろのり)
ひびき監査法人パートナー、アビタスUSCPA(米国公認会計士)、IFRS Certificate(国際会計基準検定)各プログラム講師ひびき監査法人 代表社員 公認会計士

朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)、朝日アーサーアンダーセン株式会社、新橋監査法人を経て現職。上場企業の監査、アドバイザリー業務に多数従事し、IFRSの研修も実施。
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IASB 中小企業向けIFRS適用グループ(SMEIG)メンバー、国際会計研究学会会員。公認会計士。USCPA。

合わせてお読みください

最近のエントリー