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  • 2021/11/29更新

のれんの償却におけるIFRSと日本基準の差異

目次
巨額のれんの衝撃
会計上ののれんとは何か?
IFRSと日本基準の差異
のれんの会計処理の行方
IFRSを理解するために何を学ぶべきか

巨額のれんの衝撃

20215月、株式会社セブン&ホールディングスは、米国でSpeedwayブランドにて運営するコンビニエンスストア事業及び燃料小売事業を運営する複数の企業を約2兆3千億円で買収し、約13千億円という巨額ののれんを連結貸借対照表に計上しました。驚くべきことは、のれんの金額の大きさもさることながら、同社は日本基準を適用しているため、今後、年間約650億円の償却費を連結損益計算書に計上することになります(同社は、のれんの償却方法及び償却期間について、20年間の均等償却を会計方針として選択しています)。

のれんの計上及び償却費が同社の将来の財務内容に与える影響は決して小さくないことは容易に想像できますが、企業買収の局面でしばしば話題になる、「のれん」とは一体何でしょうか?本稿では、会計上の「のれん」の正体を明らかにするとともに、IFRS及び日本基準のそれぞれでどのように会計処理されるのかを解説したいと思います。IFRSと日本基準の間の代表的な会計基準差異と聞けば、まずのれんの話が出てくるかと思いますが、のれんの会計処理は、歴史的にも議論の絶えないトピックとなっているのです。

会計上ののれんとは何か?

のれんとは、いわゆる取得のれんを指し、取得企業が事業を取得した際に支払った対価から被取得企業の識別された資産・負債の純額を差し引いたものをいいます。IFRS第3号(企業結合)によれば、のれんには以下のものが含まれていると考えられています(IFRS3.BC313)。

① 被取得企業の既存の事業における継続企業要素の公正価値(認識された資産・負債には個別に反映されていない、被取得企業が継続的に高い収益率を生み出す源泉。例えば、競合企業が容易に参加できない市場の参入障壁や能力の高い人材、カルチャー等)


② 被取得企業が取得企業と統合されることから生じる買収後のシナジー(取得企業が被取得企業の販売チャネルを用いて自社製品を販売することによる売上増加、あるいは、生産拠点が統合されることによるコストの削減等)

IFRS第3号によれば、これらの構成要素は「コアのれん(core goodwill)」と表現され、米国基準も同様の定義を置いています(FAS 141.B313)。取得企業の経営者は、通常、将来の事業の拡大や成長等を見越して企業を買収しますが、まさに「コアのれん」の取得そのものが経営者の買収目的に他ならないのです。「コアのれん」は、取得企業に将来の経済的便益をもたらしますので、IASB(国際会計基準審議会)は、のれんはIFRSの概念フレームワークにおける資産の定義を満たすとの結論を下しています。

また、概念的にはのれんの一部ではありませんが、取得対価の過大払い又は過少払いといった「不純物」ものれんの一部を構成することがあります。これらは、本来、のれんに含めて計上すべきものではありませんが、私たちの日常生活の買い物でもあるように、合理的な判断を欠いたことにより、つい高く買いすぎてしまった、あるいは、たまたま運よく安く買えたといったことがM&Aの現場でもしばしば生じます。これらはいわば、企業買収時における「不純物」ともいうべきものですが、IFRSでは早晩、減損処理によって除去できるものと考えられています(IFRSの減損処理については後述)。

また、買収時の企業価値評価においては、①や②の構成要素と判断した部分がそのままのれんになるケースはまれであり、実務的には企業結合において取得した契約・法的要件もしくは分離可能性要件を満たす識別可能な無形資産が、のれんと区別して認識されます(IFRS3.B31)。いわゆる取得原価の配分(Purchase Price Allocation:PPA)に伴う無形資産評価が行われることにより、のれんの純度はより高められるのです。

IFRSと日本基準の差異

IFRSにおけるのれんは、米国基準と同様に非償却とされ、少なくとも年に一度の減損テストが要求されています。一方で、日本の会計基準では、のれんは20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却するとされています。すなわち、日本の会計基準ではのれんは一定期間にわたり償却され、のれんの簿価が逓減していくのに対し、IFRSでは償却を行わないので、のれんの簿価は当初の金額のまま据え置かれます。企業を買収した後、取得企業の業績が悪化した場合、減損テストによって多額の減損損失が計上されることがあります。毎期簿価が逓減する日本基準の償却モデルと異なり、IFRSの減損モデルは、財務諸表の利用者が経営者の買収の成否や買収後のパフォーマンスを測定するために有効であると考えられています。

ところで、現在のIFRSはのれんを非償却にしていますが、2004年にIFRS第3号が発行される前までは、IAS第22号で規定されていたのれんの最長の償却期間は20年でした。当時、IASBが非償却に会計処理を変更した理由は、のれんの耐用年数を見積もることは通常困難であること、また、IFRSの減損テストが十分に機能すると考えられていたためです。

のれんの会計処理の行方

2020年3月にIASBより公表されたディスカッション・ぺーパー(DP)「企業結合 - 開示、のれん及び減損」では、のれんの償却を再導入すべきかが審議されましたが、のれんの償却を再導入しないことが予備的見解とされました。しかしながら、この予備的見解は、僅差により決定され、多くのIASBのボードメンバーが償却の再導入に賛成票を投じたとされています。のれんを償却することに賛成する意見は、のれんが償却されないと、のれんが過大計上されてしまうことを懸念しています。その理由は、そもそものれんの価値は時の経過とともに減価する(つまり、企業はのれんを費消している)と考えており、のれんを償却しない場合には、結果として、会計基準で認められていない「自己創設のれん」を計上してしまうと考えられています。また、減損のみモデルでは、のれんの価値の低下をタイムリーに認識できないことも指摘されています(いわゆる、「too little, too late」問題)。

一方、のれんを償却することに反対する意見は、財務諸表を利用する投資家の多くが、のれんの償却費を財務分析から除外していることや(財務分析上、のれんの償却費を足し戻している)、のれんの耐用年数を見積ることは実務上不可能で、のれんの償却費は恣意的な金額でしかないと主張しています。また、現状の会計処理ではのれんは非償却とされており、現状の会計処理をあえて変更する必要があるほどの明確な根拠はないということも反対派の根拠となっています。

なお、米国のFASB(財務会計基準審議会)が2019年10月までコメント募集していた「識別可能な無形資産およびのれんの事後の会計処理」では、「減損のみモデルを支持」と「償却を支持」のコメントが混在していた点ではIASBのディスカッション・ペーパーと変わらないものの、コメント提出者の半数以上が償却を支持していました。その結果、2020年12月のFASB会議では、のれんを定額法で償却することが暫定決定されています。IASBもFASBも財務諸表の利用者にとって比較可能性が重要であることは認識しており、FASBの暫定決定は、少なくとも今後のIASBの議論に何らかの影響を与えることになるかもしれません。

IFRSを理解するために何を学ぶべきか

IFRSを学ぶ方法として、IFRS基準書を読みこむのが王道かもしれませんが、英文基準書の独学は困難を極めます。短期間で効率よくIFRSの原理原則を学習いただくためには、アビタスのIFRS講座がおすすめです。

講座には、実務家講師によるeラーニング講義や、基準書の内容を分かりやすく書き起こしたテキスト(基準書の英文も併記し、日本基準との差異も解説)、学習質問サービスなどが含まれ、IFRSの原理原則を短期間で学ぶことができます。

まずは無料の資料請求か、説明会にご参加ください。

監修

岡田 博憲
ひびき監査法人パートナー、アビタスUSCPA(米国公認会計士)、IFRS Certificate(国際会計基準検定)各プログラム講師

(おかだ・ひろのり)ひびき監査法人 代表社員 公認会計士
朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)、朝日アーサーアンダーセン株式会社、新橋監査法人を経て現職。上場企業の監査、アドバイザリー業務に多数従事し、IFRSの研修も実施。
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IFAC(国際会計士連盟)中小事務所アドバイザリーグループ テクニカル・アドバイザー、国際会計研究学会会員。公認会計士。USCPA。

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