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目次
「目に見えない」資産と市場価値
IFRSにおける無形資産
無形資産をめぐるデジタル課税の問題
第二の柱ルールのIFRSへの影響
「いちばんたいせつなことは、目に見えない」
これはフランスの作家であるサン=テグジュペリ作『星の王子さま』の一節にあることばです。物事の本質は目に見えるものではなく、心で見ることしかできないと、物語は読者に語りかけます。今日、市場で独占的な地位を築いているグーグルやアマゾン・ドット・コムなどのいわゆる「GAFA」と呼ばれるプラットフォーム企業は、「目に見える」有形固定資産ではなく、「目に見えない」無形資産を強みに成長を続けています。
Elsten and Hill の2017年の論文「 Intangible Asset Market Value Study? 」によれば、米国の代表的な株価指数であるS&P 500に採用されている企業の市場価値を要因分解した結果、2015年時点で84%が無形資産でした。また、欧州のS&P Europe 350に採用されている企業の市場価値は71%が無形資産であるとしています。市場規模の拡大が見込まれる先端産業は、技術的なイノベーションによって生み出された産業であり、企業が競争を優位に進めていくうえで、無形資産への投資が極めて重要であると言われています。
企業が保有する土地や建物等は「目に見える」有形固定資産です。一方、特許や商標、顧客名簿、ブランド価値などは「目に見えない」無形資産です。IAS第38号「無形資産」では、資産は「過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が企業に流入することが期待される資源」と定義されており、中でも無形資産は「物理実体のない識別可能な非貨幣性資産」であるとしています。つまり、無形資産は、有形固定資産と同様に「将来の経済的便益が企業に流入することが期待される資源」ではあるものの、物理的実体のない「目に見えない」資産であると定義されています。
しかし、企業の市場価値を決定する無形資産の多くは、無形資産として識別不能か、信頼性をもって測定することが困難なことから、ソフトウェアやM&Aで取得したのれん及び法律上の権利等を除き、IFRS上は無形資産としてバランスシートに計上されることはありません。IFRSにおいても、開発費のうち、将来の収益獲得の可能性が高いことを立証できる部分は資産計上が求められますが、企業の市場価値に影響を与える知的資本(R&D投資)や人的資本(人材開発投資)の多くは一時的な費用として処理されるため、むしろ短期的には利益を押し下げる要因になります。今日、グローバルで非財務情報の開示の重要性が高まっている背景には、これらオフバランスとなっている無形資産投資に関する情報を投資家等に開示することが求められているからです。
一方で、無形資産が富の源泉となったことで、新たな問題も浮上してきました。多国籍企業が無形資産を低税率国や租税回避地(タックスヘイブン)に移転させることで税負担を軽減することが問題視されたのです。そうした企業の多くは、アイルランド等の低税率国にある関係会社に特許権や顧客関連資産等の無形資産を移転し、各国のグループ企業から無形資産の使用にともなうライセンス料などの形で利益を集め、企業グループ全体の税負担を圧縮しているのです。移転が容易な「目に見えない」資産という特性を活かし、グローバルでの節税を実現してきたのです。欧米企業は「税はコストであり管理可能なもの」であるという意識を強く持っており、節税を通じて税引後利益やフリー・キャッシュフローを増加させることにより、自社の市場価値を最大化することに強い関心をもっています。
しかし企業にとって経済合理性のある行動であっても、各国の税務当局にとっては、本来あるべき税収が減少する極めて深刻な問題となっています。これらの問題を受けて、2015年の「BEPS(税源浸食と利益移転:Base Erosion and Profit Shifting)最終報告書」において、「経済のデジタル化に伴う課税上の課題」について、BEPSがないよう、各国の税制の調和を図ると共に、国際課税ルールを経済活動の実態に即したものとするための作業を進めることが合意されました。その後、2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、二つの柱から成る対応策の大枠が国際的に合意されたのです。二つの柱のうち、第二の柱は「グローバル・ミニマム課税」と言われ、年間総収入金額が7.5億ユーロ相当額以上の多国籍企業グループを対象に、国・地域ごとに最低でも実効税率15%の課税(トップアップ課税)を確保するGloBE(Global Anti-Base Erosion)ルールが含まれており、それぞれの国・地域の国内法で導入することになっています。
GloBEルールの適用によって、最終親会社等は、低税率国に所在する子会社等に係る実効税率と最低税率(15%)の差分を、当該親会社等の所在する国・地域において上乗せ課税されることになります。また、親会社を低課税国に設立するケースも想定して、低課税国にある親会社等の税負担が15%に達していない場合には、最低税率15%になるまで子会社等の国で課税するルールを設けています。
なお、我が国においても、「BEPS包摂的枠組み」において合意されたグローバル・ミニマム課税へ対応するため、令和5年3月に公布された所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)において、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の創設が行われました。
国際会計基準審議会(IASB)は、2023年5月に「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の改訂)」(以下「改訂IAS第12号」)を公表しました。改訂IAS第12号は、OECD/G20 の「BEPS包摂的枠組み」において議論が進められた第二の柱から生じる繰延税金の会計処理からの一時的な救済措置を企業に与えたものです。
通常、繰延税金資産・繰延税金負債の測定に際して、報告期間の末日までに制定されたか又は実質的に制定された税率(及び税法)を反映することが定められています。第二の柱モデルルールでは、子会社を含めた連結グループでの実効税率が最低税率を下回る場合には、トップアップ税を支払うことが求められます。しかし、IASBはトップアップ税に係る繰延税金資産・繰延税金負債をどのように会計処理するのかについて現時点で不明確な点があるとしています。そのため、改訂IAS第12号では、第二の柱のモデルルールに関する税制から生じる税金に関連する繰延税金資産及び繰延税金負債を認識又は開示してはならないという、「一時的な例外」が定められたのです。一方で改訂IAS第12号は、第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャー(特に第2の柱のモデルルールに関する税制の発効前)を投資家がよりよく理解するのに役立てるため、以下のような追加的な開示を要求しています。
岡田 博憲
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