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  • 2022/09/01更新

IFRSにおける超インフレ会計

目次
インフレ時代の到来
失われる貨幣の購買力
IFRSにおける超インフレ会計(IAS29号)
超インフレ会計の適用手順

ンフレ時代の到来

ロシアのウクライナ侵攻やアフターコロナ下での経済活動の再開等を背景に、世界的なインフレーションが進行しています。原材料・部品の調達から製品販売までのサプライチェーンが目詰まりを起こし、グローバルでモノの奪い合いになっている状況であり、企業は、安い製品を求めて調達先を世界中に広げるグローバル戦略の見直しを迫られています。

そのような経済環境下で、特にトルコのインフレは深刻であり、2022年7月の消費者物価は前年比79.6%上昇と前月の78.6%からさらに加速し、上昇率は199810月以降で最高となっています。また消費者物価の先行指標となる生産者物価も7月は前年比144.6%上昇しており、伸びの加速が止まらない状況です。では、トルコのような超インフレ(hyperinflation)経済下の企業では、IFRS上どのような問題が生じるのでしょうか?

失われる貨幣の購買力

超インフレ経済下では、貨幣の購買力(一定金額で購入可能な財・サービスの量)が急速に失われるため、異なる時点で発生した取引その他の事象から生じた金額の比較が、たとえ同一の会計期間内であっても、誤解を招くものとなります(IAS29.2)。したがって、IFRSは、超インフレ経済下にある企業等の経営成績及び財政状態の報告に際し、貨幣の購買力が失われるなかで異なる時点で発生した取引等の金額の比較が困難になることを避けるために、一般物価水準(general level of price)の変動を財務諸表に反映させることを要求しています。

例えば、100で仕入れた商品を200で販売する企業において(原価率50%)、仕入れ後のインフレにより物価が50%上昇し販売価格が300となった場合、財務諸表上、300の売上と100の売上原価が計上されることとなります(原価率33.3%)。同じ商流でありながら、物価上昇により、200の期間利益に棚卸資産の物価変動上昇分50が含まれることになり、企業の収益性の期間比較が困難となります。このような場合、IAS29号では、売上原価に物価変動の調整を加え、150=100×150%)と表示することで比較可能性を確保します。さらに、キャッシュ・フロー計算書や財政状態計算書の特定の項目についても同様に物価変動調整を行います。物価変動調整により生じる貸借差額は、「正味貨幣持高に係る利得又は損失」として純損益に含まれます(IAS29.27,28)。

IFRSにおける超インフレ会計(IAS第29号)

IAS第29号では、機能通貨が超インフレ経済下である企業の財務諸表について、一般購買力の変動を反映する一般物価指数における変動の影響を遡及的に調整することを要求しています。この調整は、IAS 21号「外国為替レート変動の影響」に従い、在外営業活動体(子会社・関連会社・共同支配企業・支店など)の親会社の表示通貨への再換算に組み入れられることになります。 これらの要求事項は、年次財務諸表および IAS 34号「期中財務報告」に基づいて作成された期中財務諸表にも等しく適用されます。

IAS 第29号を適用する前提として、超インフレ国とみなされる特徴が必要ですが、IAS 29号によれば、超インフレ国には、3 年間の累積インフレ率が、 100%に近づいているかまたは 100%を超えているという特徴が含まれるとされています(IAS29.3e))。

例えば、トルコの3 年間の累積インフレ率は、2022331日時点で100%を超えており、国際通貨基金(IMF)も、2022 4 月の世界経済見通しデータベースにおいて、トルコの3 年間の累積インフレ率は、2022 年末までに138%に達すると予測していることから、大手会計事務所ネットワークは、2022年6月30日以後に終了する報告期間(四半期含む)より、トルコがIAS 29号における超インフレ国に該当するという見解を公表しました。したがって、公表された消費者物価指数を使用して、2022 630日以後に終了する期間におけるトルコ・リラを機能通貨とする営業活動体に関して、超インフレ会計の適用が要求されると考えられています。

トルコ・リラを機能通貨とする在外営業活動体がある日本企業は、実務対応報告第18号に従いIFRSにより作成された在外子会社の財務情報を基礎として連結処理を行っている場合には、当該在外子会社にIAS29号が適用されることに留意が必要です。もちろん、実務上は、IAS29号の適用による影響に重要性がない場合は、必ずしも超インフレ会計の適用が求められるわけではありません。

超インフレ会計の適用手順

超インフレ会計は、①適用対象国・対象会社の識別、②修正対象項目の特定、③修正金額の算定、④報告通貨への換算及び連結、⑤開示といったプロセスで適用されます。

①に関しては、前述のとおり、トルコのような国がインフレ会計の適用対象国となると判断されます。トルコ以外では、すでにアルゼンチンやイラン、ベネズエラ等が超インフレ会計の適用国となっています。

次に②ですが、超インフレ会計を適用すべき子会社等が識別された場合、当該子会社等の財政状態計算書上の非貨幣性項目は、期末日の公正価値で計上されているものを除き、一般物価指数の適用により修正再表示されます(IAS29.1114)。その一方で、貨幣性項目は修正再表示されません。貨幣性項目は、保有している貨幣及び貨幣で受け取るかまたは支払うこととなる項目であり、すでに報告期間の末日現在の貨幣単位で表現されているからです(IAS29.12)。例えば、現金や預金、営業債権、買掛債務などは、典型的な貨幣性項目となります。なお、包括利益計算書(損益計算書)及びキャッシュ・フロー計算書上のすべての項目は修正再表示されます(IAS29.2633)。

③ですが、②修正対象項目の特定に従い、物価変動調整が必要な項目の修正再表示を行います。例えば、有形固定資産のような非貨幣性項目は、一般物価指数を適用し、購入日から修正再表示されますが(IAS29.15)、報告期間の末日以外の時点で再評価された不動産の場合、取得時でも報告期間の末日でもない日現在の金額で財政状態計算書に計上されているため、その帳簿価額は再評価日から修正再表示されます(IAS29.19)。

さらに④報告通貨への換算及び連結ですが、物価変動調整後の子会社等の財務諸表の金額は、原則として、すべて直近の財政状態計算書の日現在の決算日レートで換算しなければなりません(IAS21.42a))。ただし、連結財務諸表の表示通貨が超インフレ下の通貨ではない場合、連結財務諸表上の当該子会社等に関連する比較対象金額は修正再表示しません(IAS21.42b))。したがって、日本は、IAS29号に規定されている超インフレ国に該当しないため、日本円を表示通貨とする連結財務諸表においては、比較情報の調整は行わず、当期の金額のみがIAS29号に基づく会計処理の影響を受けることになります。

最後に⑤開示ですが、超インフレ会計においては、以下の事項の開示が要求されます(IAS29.39)。

(a) 過去の期間に関する財務諸表及び対応する数値が、機能通貨の一般購買力の変動により修正再表示され、その結果、報告期間の末日現在の測定単位で表示されている旨

(b) 財務諸表が、取得原価アプローチ又は現在原価アプローチのいずれを基礎としているか

(c) 報告期間の末日現在の物価指数の特定及び水準並びに当期と前期との間の当該指数の変動

これらの要求されている開示は、財務諸表におけるインフレーションの影響の取扱いの基礎を明確にするために必要であり、当該基礎及びその結果としての金額を理解するために必要な他の情報を提供することも意図しています(IAS29.40)。

IFRSを理解するために何を学ぶべきか

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監修

岡田 博憲

(おかだ・ひろのり)ひびき監査法人 代表社員 公認会計士
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、
同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IFAC(国際会計士連盟)中小事務所アドバイザリーグループテクニカル・アドバイザー、IFRS財団 SME適用グループ(SMEIG)メンバー。
公認会計士。USCPA。

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