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  • 2023/06/05更新

IFRS財団によるサステナビリティ開示基準の動向

目次
IFRS財団によるサステナビリティ開示基準
わが国のサステナビリティ開示の動向
EU・米国におけるサステナビリティ開示の動向
おわりに

IFRSを理解するために何を学ぶべきか

IFRS財団によるサステナビリティ開示基準

近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報等のサステナビリティ情報に代表される非財務情報の開示の重要性が世界的に高まっています。新しいサステナビリティ情報の開示を検討している企業や、既存の開示情報の見直しを検討している企業にとって、今後選択、適用する可能性があるのが「IFRSサステナビリティ開示基準」です。

IFRSサステナビリティ開示基準は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、IFRS財団により設立することが公表された国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standards Board:以下「ISSB」)が作成する開示基準です。ISSBは、投資家等に対して企業のサステナビリティに関連するリスクおよび機会に関する情報を提供し、それに基づく意思決定を支援するために開示基準の包括的なグローバル・ベースライン(global baseline)、つまりさまざまな国や地域におけるサステナビリティ開示基準の基礎的な構成要素を提供することを目的としています。

サステナビリティ開示基準の開発は、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言を踏まえて行われており、TCFD提言に基づく開示をより高度化したものとなっています。つまりISSBは、「既存のサステナビリティ基準及びフレームワーク(それらを開発した機関の過去のデュー・プロセスに従って開発され、幅広い利用者及び作成者の支持を得ているものを含む)を使用し、それらを基礎とする機会を認識する(公開草案IFRS S1号に関する結論の根拠BC20項)」という方向性を取っており、全く新しいものを定めようとするものではありません。IFRSサステナビリティ開示基準が、TCFD提言の4本の柱である「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」をベースとしていることからも、従来からのサステナビリティ情報開示の枠組みを踏襲していることがわかります。

ISSBは2022年3月31日に、IFRSサステナビリティ開示基準における共通の要求事項である「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(以下「S1基準案」)と、テーマ別要求事項である「気候関連開示」(以下「S2基準案」)の2つの公開草案を公表しました。公開草案に対するステークホルダーからのフィードバックを基にした実質的な審議は2023年2月16日に終了しており、最終基準が2023年6月末に公表される予定です。

わが国のサステナビリティ開示の動向

現在、わが国においては、岸田内閣による「新しい資本主義」の実現のために、非財務情報開示の充実や四半期開示の見直しなど、そのための環境整備が進められています。
2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」や「コーポレートガバナンスに関する開示」などについて、制度整備を行うべきとの提言がなされたことを受けて、2023年1月31日に、改正された「企業内容等の開示に関する内閣府令」及び「企業内容等の開示に関する留意事項について(開示ガイドライン)」等が公布・施行されました。

この改正によって、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄が新しく設けられ、2023年3月31日以降終了する事業年度に関する有価証券報告書から、「ガバナンス」及び「リスク管理」については必須の事項として記載することが求められ、また「戦略」及び「指標及び目標」は、重要な事項について記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)a及びb)。特に人的資本・多様性に関しては、「戦略」において、例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針を記載し、「指標及び目標」において、「戦略」に記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)c)。また、提出会社やその連結子会社が「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標について、有価証券報告書等の【従業員の状況】においても記載することが求められています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(29)d、e及びf)。

ところで、わが国にける実質的なサステナビリティ開示基準については、国内のサステナビリティ開示基準の開発や国際的な基準開発への貢献を目的とするサステナビリティ基準委員会(Sustainability Standards Board of Japan:以下「SSBJ」)が財務会計基準機構(FASF)によって設立され、S1基準案及びS2基準案に相当する日本版サステナビリティ開示基準の開発に着手しています。現時点において、遅くとも2024年3月31日までに公開草案が公表され、2024年度中に確定基準が公表されることが目標とされています。

また、これらの動向に先立ち、2021年6月11日に公表、施行された改訂コーポレートガバナンス・コード(2021)は、サステナビリティを巡る課題への取組みとして、プライム市場上場企業に対して、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させること、サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することを求めています。

EU・米国におけるサステナビリティ開示の動向

EUにおいては、2023年1月にEUで企業のサステナビリティ情報開示の新たな指令となる企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive:以下「CSRD」)が発効されました。EUは、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「欧州グリーンディール」を掲げており、CSRDは、その一環としてサステナビリティに関する情報開示の強化を目的としています。また、CSRDの対象企業は、報告要件を定める欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standards:以下「ESRS」)に従ったサステナビリティ情報の報告が必要になります。CSRDは、2024年1月以降開始する事業年度より、企業形態に応じて段階的に適用される予定になっています。

CSRDでは、報告された情報の信頼性を確保するために、新たにサステナビリティ報告への第三者保証が義務付けられることが注目すべき点です。しかし、当初はより厳格な保証要件である合理的保証ではなく限定的保証を求め、サステナビリティ報告に関する保証レベルを段階的に高めることが検討されています。EUにおける開示要求は、一定の日本企業の子会社等にも適用されるため、日本企業においても対応が必要となる場合があることに留意が必要です。なお、ESRSがS1基準案及びS2基準案よりも広範な開示領域をカバーしているため、IFRSサステナビリティ開示基準がESRSを指標や開示の識別の指針として用いることや、相互の基準の互換性が検討されており、両者の間で開示項目についてさらに調整が進むものと思われます。

一方、米国の動向ですが、2022年3月21日に米国証券取引委員会(SEC)は、気候変動開示案を公表しました。公開草案では、非財務情報・財務情報それぞれについて、年次報告書(Form 10-Kや20-F等)や証券登録届出書(Form S-1)での開示事項を制定しており、非財務情報開示は、TCFDやGHGプロトコルをベースに作成されています。さらに一定の要件を満たす企業には、GHG排出量(Scope1、2)に関して第三者保証を要求しています。

財務情報開示に関しては、財務諸表注記のなかで、異常気象などの気候関連事象や脱炭素社会への移行活動による連結財務諸表への金額的影響の定量的な開示のほか、会計上の見積りや仮定が及ぼす影響を定性的に開示することも求めています。これらは、財務報告に係る内部統制や会計監査人による財務諸表監査の対象となります。特に金額的影響については、データの正確性・網羅性が担保されるようにシステムやプロセスについて適切な内部統制の整備が必要となることに留意が必要です。

おわりに

グローバルなサステナビリティ情報開示の動向が注視される中で、日本企業はどのように対応すべきでしょうか。冒頭でも指摘したとおり、TCFD提言を基礎とするIFRSサステナビリティ開示基準は包括的なグローバル・ベースラインであるため、IFRSサステナビリティ開示基準の検討を進めることで、日本やEU、米国の制度開示を含むさまざまなサステナビリティ報告への対応を効率的かつ効果的に進めることが可能になると思われます。また、IFRSサステナビリティ開示基準は、統合報告やGRI基準に基づく報告を行ううえでもベースラインとして位置づけることができ、企業にとって非常に利用価値の高い基準であるといえます。IFRSサステナビリティ開示基準は、国際財務報告基準(IFRS)以外の会計基準を適用する企業であっても選択することができます。しかし、ISSBは、基準設定に係る概念指針として、国際会計基準審議会(IASB)の「財務報告に関する概念フレームワーク」に相当するフレームワークをサステナビリティ基準において独自では作成しないとしているものの、IFRSサステナビリティ開示基準の公開草案では、財務報告に関する概念フレームワークの一部を取り込んでいます。この点、ISSBは、会計基準とサステナビリティ開示基準間の一貫した関係を構築し、一般目的財務報告における主要な利用者のニーズを満たすための情報を提供するためのコネクティビティ(connectivity、結合性)が重要であるとし、IASBとISSBの両者の間で、今後、概念や要件の整合性や共同プロジェクトの実施が検討されることになります。その意味からも、IFRSサステナビリティ開示基準の適用をきっかけに、IFRSの任意適用を検討する企業が出てくる可能性があると思われます。

IFRSを理解するために何を学ぶべきか

IFRSを学ぶ方法として、IFRS基準書を読みこむのが王道かもしれませんが、英文基準書の独学は困難を極めます。短期間で効率よくIFRSの原理原則を学習いただくためには、アビタスのIFRS講座がおすすめです。

講座には、実務家講師によるeラーニング講義や、基準書の内容を分かりやすく書き起こしたテキスト(基準書の英文も併記し、日本基準との差異も解説)、学習質問サービスなどが含まれ、IFRSの原理原則を短期間で学ぶことができます。

まずは無料の資料請求か、説明会にご参加ください。

監修

岡田 博憲

(おかだ・ひろのり)
日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 専門委員、日本公認会計士協会 中小企業施策調査会 中小企業会計専門委員会 専門委員、
同協会 SME・SMP対応専門委員会 専門委員、IFRS財団 SME適用グループ(SMEIG)メンバー。
公認会計士。USCPA。

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